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□ハニー×ハニーA
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「みっみっみは、みは」
名前だけで良いんだがと心では思いつつ、口にも顔にも出さない。
随分面白い奴と知り合ってしまったようだ。こいつ見てても飽きがこねぇ。
「みはっしですっ」
そこまで言うと満足げに阿部を見る。
阿部は三橋の胸元のネームプレートを指差す。
一瞬頭にはてなを浮かべたが阿部の意図が分かったらしくまたあたふたする。
「れっれれ、れんです」
「みはしれん?」
「はいっ」
はちきれんばかりの笑顔を阿部に向ける。
朝の道端でこいつらは何をやっているんだか。
「字は?」
「れんかとかの、れん?」
「廉価?」
随分難しい例えだ。
「はい…」
「あぁ…そっか…じゃ俺、もうそろやばいんで」
小走りで振り向かず、そこを後にした。
あんな話し込むとは思わなかった。只の世間話だったが、あんな喋り方だったら時間がいくらあっても足りない。
出会った人全員にそんな感じの喋り方なんだろうか?
久しぶりに会話って難しい、と思った阿部だった。
会社へと急ぐ、話し込んでて遅刻なんてあり得ない。
そんなに会社は遠くない。300m位走ると会社が目の前だ。
走ってロビーに入り、そのままエレベーターに駆け込む。
もともとエレベーターに乗っていた人達が突然の阿部の登場に少し驚いたようだった。
─あっ阿部さんだ─
─めっちゃ急いでる感じ?─
エレベーターのランプは7階をさす。
有名な会社とゆうことは分かっていた、だからなんだ?
部長?だからなんなんだよ。
そんなんでちやほやしないでほしい。
ましてや阿部は若く部長になった為、社内で知らないのは清掃のおばちゃんくらいだ。
たかが部長だ、としか阿部は思っていないが、この会社は年功序列な部分があり他の部署は阿部の二回り三回り年上のおじさんばかりだ。
関心を向けられたのはその為でもある。
「はぁー…」
窮屈なエレベーターをおりて廊下を歩く。部署に入り一呼吸置くと自分のデスクへ向かう。
「遅かったね、阿部がねぇ…珍しい」
「…あぁ」
水谷はきょとんとしながら阿部を見る。
「熱、あるの?」
からかったつもりだったのに真面目に返されてしまい調子が狂う水谷。
熱と言う言葉も本気ではない。
「熱かもな…」
阿部は少し上を向いて額を押さえる。
「えぇっ!?」
「冗談」
「ふぇっ?」
どこか阿部がおかしい、と不安になる。冗談、と笑って言って見せるのだから、相当重症と見えたのだろう。
「調子なんて悪くねぇから、お前も仕事しろ」
「っ…ほいっ」
熱って言われても仕方ねぇか…
全くそんな顔も赤いわけではない。熱とゆうのは水谷が阿部をからかおうとして、空振りした言葉だ。
でも阿部は
顔が高揚しているのは間違いない、と俯いて顔を隠した。