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□ハニー×ハニーB
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「こうゆーのも、いいなって」
視線を机に向けて、机に言葉を溢す。
「ふぇ?」
「働きづめの俺にとってこんなの新鮮だ。相手はお前らだとしても」
栄口と水谷の目は点になっていた。
見ると阿部は薄く笑ってグラスを鳴らす。カランと音を立てたグラスにはもうお酒は入っていなかった。
「えと……」
言葉に詰まる。水谷も栄口もなんだか変な気分だ。簡単に言うと阿部との隙が縮まった気がした。
「すんませーん」
阿部が声を上げると、直ぐに笑顔がとても良い女性店員が個室にきた。
店員が阿部を一瞥する。
「はい。お伺いします」
「えっと生ビール、あとこれと…これと、これで……お前らは?」
視線はメニューに目を落とし、そのまま栄口と水谷に話しかける。二人ははっとしたように阿部を見る。
「じゃ、じゃあレモンサワー」
水谷の表情はなんだかふわふわしていて今にも寝てしまいそうだ。
「俺は…お茶ハイで」
「ん、そんじゃそれで」
「かしこまりました!」
元気はつらつと返事をする、店員は足早に店の奥へ消えた。
沈黙。
誰もが次に発する言葉を探していた。 この沈黙は、肌に刺すわけでもなく、嫌な汗をかく訳でもなく。 ただ単に空気が流れるような自然な沈黙だった。
普段の煩さに比べればこっちの方がまだ良い、と阿部はそう思った。他二人はあまり良しとは思っていないようだったが。
阿部はグラスを片手にカランカランと鳴らす。水谷は少し残ったおつまみを見つめては箸で突っつく。
栄口はメニューを見ながらも他二人の様子を窺った。
「俺もさ……」
「ん?」
突然口を開いたのは水谷。
視線の先には先程突っついていた軟骨の唐揚げがあった。それを口に運ぶと言葉を続けた。
「阿部達と居るの楽しいよ……阿部はとーきどき怖いけど、基本的に良い奴だし。栄口はさ……まぁ栄口が居なかったらこの飲み会成立してないしっ」
言葉が止む気配はない。
「だから…………」
ガンッ
「!?」
阿部と栄口が一斉に水谷を見る。
「おちた……?」
「ねた…?」
水谷は机に頭を強打して、そのまま眠りについた。
すぅすぅと漏れる息に二人ともなんだかほっとした。
「嘘だろ?」
「嘘じゃないです。見た通りです」
阿部と栄口は顔を見合わせると思わず笑ってしまった。
阿部の見事な含み笑い。栄口は口を大きく開けて笑う。
「一体なんて言おうとしてたんですかね。気になりますっ」
「そだな」
阿部は机に突っ伏した水谷を床に横たわせる。阿部がどんなに雑にやっても、水谷は起きなかった。
「水谷さん面白っ、今度なんて言おうとしたか聞いてみましょうね」
栄口はわくわくした顔を隠せずにいた。
「すんませーん」
また阿部が声を上げる。
「はっはい」
阿部に呼ばれて先程とは違う女性店員がきた。息が切れていて、個室の外は忙しそうだ。
「さっき頼んだやつなんですけど…」
「もっ、申し訳ありません直ぐにお持ちしますっ」
「いやっそうじゃなくて…」
慌てた店員は直ぐにそこを立ち去ろうとする。それを阿部は焦って止めた。
「はい…?」
「キャンセルできます?」
阿部は指でばってんを作る。店員は一瞬頭にハテナを浮かべるが少し黙った所で阿部の主旨が分かったのか、かしこまりました。と言った。阿部は店員が去る前に付け足しでおあいそで、と言った。