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□フレンチ
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価値観の違う君と。




*フレンチ*



「はー…」

ため息をしたのは、西浦高校野球部主将。

花井梓

「なーはない!」

ため息の理由は今目の前にいるそばかすだ。

「なんだよっ!」

「怒鳴んなくてもいいだろ」

「へーへー」

向かい合った机に散らかされたノート、筆記用具。そしてお菓子の袋くず。
眼鏡をかけたいかにも知性的そうな花井は頭を抱えた。

「だいたいな、ここまで理解力がないのもどうかと思うぞ」

「俺にそんなこと言ってもわかんないぞー」

にたぁと歯を見せて笑う。
敵わない、そう花井は思った。

「そだ、はないー。ここわかんねんだっ」

「そーゆーのは早く言えっ」

ぱしんっ。花井は田島のでこを軽くはたくと、ぷいっとそっぽを向いた。

「おしえてくんねぇの?」

「少しは自分で考えろ」

むすぅ…そんな声が聞こえた気がして、田島をちら見する。そのまんま田島はむすぅ、としていた。

「何のための教科書だよ…」

「さーなわかんね」

はぁ…、花井のため息は耐えない
わざわざ別教室を借りてまで個人指導してあげているのにまったく進歩がない。
他のメンバーはいつも通り図書室を借りて勉強をしている。
ふと図書室が気になった。たぶん阿部と西広が奮闘しているのだろう。

静かな図書室に騒音を巻き起こしているかもしれない。そう思うと変な目で見られないし楽なのかなと思った。

「なーはない、キスしてっ」

「はあっ?」

花井は動揺を隠せない。言った当人は視線を教科書に落としている。

「してくれねぇの?」

「なにいってんだよ」

花井を見つめる視線は真っ直ぐで逸らし難かった。

「したら…やるのか?」

「やる、」

信じようと思った。田島の目がそれを語っている。

「わかった」

机をはさんだ位置にいた花井が、立ち上がり机の向こう側へと歩み寄る。花井の表情は真剣だった。
対して田島は花井の潔さに少したじろぐ。
夕焼けの教室に花井の影が浮き上がる。

「はな、はない…」

「めぇ閉じろ」


軽いキスを交わす。


「……………」

「ほら、やるんだろ」

田島は頬を赤らめ、照れている。
ほんとにするとは思わなかった、と顔に出ている。

田島はにかっと笑うと、教科書を花井に向けた。


「べんきょおしえてっ」



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