ごった煮
□こくはくうら
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「井浦君、好きです」
「……え?」
今彼女は何と言っただろうか。
好き?
好きです?
誰が?
「はっ……!まさか須田と間違えてるとか!」
「須田君?」
「そう!須田の下駄箱は俺の下だよ!」
「?……なんで須田君?」
そう言って困った顔をしているのは隣のクラスの名字名前さんだ。
美人なんだけど、どこかとっつきにくそう、というのが今までの俺のイメージだったんだけど。
さっきまで俺は飲み物を買うために廊下を歩いていて、その時に彼女、名字さんとすれ違った。
そのまま俺は自販機まで行こうと思ったのだが。
後ろから呼び止められて、言われたのがこれだ。
俺はというと、あまりの驚きに上手く言葉が出てこない。
「あの、私は須田君のことはそんなに知らないし、井浦君が好きなわけで……」
「わああああ……!ちょ、ちょっと移動しよう!ね!」
廊下でこの話をしてはあまりに目立ちすぎる。
慌てて彼女を空き教室に押し込み、自分も入ってドアを閉めた。
「あのね、私この前、井浦君が妹さんと一緒に歩いてるところを見たの」
「基子と?」
「もとこちゃんっていうのか。可愛い妹さんだね、それで、その時の井浦君の雰囲気が学校にいる時と違うなって思って、」
「うわあああ……」
「違うの、学校にいる時も面白い人だなって思ってたんだけど、その、妹さんといる時はなんだかお兄さんって感じで……」
「うん、まあ兄だからね……」
「その、なんて言うんだろ……かっこいいなって……」
そう言う名字さんの顔がどんどん赤くなっていって、なんだ、とっつきにくいなんて何で思ったんだろう、なんて思って。
照れている名字さんを可愛いな、なんて思ってしまったら俺までどんどん顔が赤くなっていくのがわかった。
「そう思っちゃったらいつも井浦君のこと目で追うようになっちゃって、これ、好きになっちゃったんだって思ったら苦しくて」
うわあ、なんだこの子めっちゃ可愛いこと言ってる。
どうしてやろう、この可愛さは。
抱きしめたくなるような衝動を抑えて、名字さんの話を聞いていたが、駄目だ、この子すごく可愛いこと言ってる。
「この気持ちを井浦君に伝えても迷惑だってわかってたんだけど、もうこのままだと辛くて……」
ああ、彼女の目が潤んできた。
もしかして泣いてしまうんだろうか。
どうやったら彼女の涙を止めることができるんだろうか。
「ごめんね、私の言いたいことだけ言っちゃって。返事とか、いいから、」
「うん、じゃあ、」
(俺と付き合ってくれませんか)
やる時はやる男、井浦秀