綿雲
□5
1ページ/1ページ
「っ……」
「っ!気が付かれました……?私の声、聞こえますか?」
「……アンタ、誰だ」
「……はあ、彩と申します」
名前を聞かれたので答えた訳だが、喉元になにか鋭い刃物のようなものが付きつけられている、ような。
「あのー、動かれない方が、というか動けないと思いますよ?その体じゃあ、」
「ここは、どこだ」
そう聞かれたので素直に答える。甲斐の山裾の集落から少し離れたところだと。
「突然木から落ちて来られたので、驚いたんですよ。血だらけだし、意識はないし」
「ここ、アンタの家か」
「ええ、私の両親と三人暮らしですが」
「アンタの両親は、」
「共に住んでいますよ。父が、ここまで運んでくれました。母がこの布団を敷いてくれました」
「嫌がらなかったの」
「はい?」
「見たらわかるでしょ。俺、忍だよ」
「はあ、そうですか……」
「面倒なことになるって思わなかったの?」
「なるんですか?」
「いや、なるかはわからないけどさ……」
やっぱり、その考えはここでは当たり前なのだろうか。
私にはその考えはやっぱり理解できないが。
「ごめんなさい」
「は?」
「私、死にそうな人を放っておくことができなくて。ご迷惑でしたね……」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね……もういいや」
「はあ……」
そう言って眠ってしまった忍びの彼、名前も聞いていないからわからないが、そのまま口を閉ざし、眠ってしまった。
おそらく喋るのも大変なくらい、体は苦痛を訴えていたと思う。
それでも口を開いたのは彼の信念の強さか。
(とりあえず、今はお休みなさい)