綿雲

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「っ……」

「っ!気が付かれました……?私の声、聞こえますか?」

「……アンタ、誰だ」

「……はあ、彩と申します」

名前を聞かれたので答えた訳だが、喉元になにか鋭い刃物のようなものが付きつけられている、ような。

「あのー、動かれない方が、というか動けないと思いますよ?その体じゃあ、」

「ここは、どこだ」

そう聞かれたので素直に答える。甲斐の山裾の集落から少し離れたところだと。

「突然木から落ちて来られたので、驚いたんですよ。血だらけだし、意識はないし」

「ここ、アンタの家か」

「ええ、私の両親と三人暮らしですが」

「アンタの両親は、」

「共に住んでいますよ。父が、ここまで運んでくれました。母がこの布団を敷いてくれました」

「嫌がらなかったの」

「はい?」

「見たらわかるでしょ。俺、忍だよ」

「はあ、そうですか……」

「面倒なことになるって思わなかったの?」

「なるんですか?」

「いや、なるかはわからないけどさ……」

やっぱり、その考えはここでは当たり前なのだろうか。
私にはその考えはやっぱり理解できないが。

「ごめんなさい」

「は?」

「私、死にそうな人を放っておくことができなくて。ご迷惑でしたね……」

「いや、そういうわけじゃないんだけどね……もういいや」

「はあ……」

そう言って眠ってしまった忍びの彼、名前も聞いていないからわからないが、そのまま口を閉ざし、眠ってしまった。
おそらく喋るのも大変なくらい、体は苦痛を訴えていたと思う。
それでも口を開いたのは彼の信念の強さか。

(とりあえず、今はお休みなさい)
 

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