綿雲

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朝日が昇り、佐助さんの様子を窺いに部屋に入る。
からりと戸を開いた瞬間に気が付いた。

「佐助さん?」

そこにはもう人気などなく、敷かれた布団にもぬくもりは残っていなかった。
昨日、水を飲むことも困難だったのに、いつの間に出て行ったのだろう。
そして、その思いとは逆に、もう出ていくのだろうという気はしていた。

彼はいつまでもここにいるわけはないと思っていたから。
ああ言いつつも、私たちに迷惑を掛けるわけにいかないとずっと思っていたのだろう。

何だか、ようやく昨日、少し話せるようになったのに、という気持ちが心の中に静かに降りてくる。
始めに目が覚めたときに刃物を向けてきた彼の目。
馬鹿にした表情。
水を飲むときに支えた彼の背のぬくもり。
そうか。私、この世界に来て初めての気持ちを持っているんだ。彼を、想う気持ち。

さようなら、と心の中で呟く。
それは佐助さんに向けた言葉であり、私の気持ちに向けた言葉でもあった。


「さ、お布団片付けなきゃ……ん?」

もうここに寝る人はいないんだから、と佐助さんが寝ていた布団を片付けようとして枕元にある小さな包み紙に気が付いた。
かさり、とその白い紙を開くと、きらりと鈍く光る小石のようなものがいくつか存在していた。
その包みは結構な重さがありその大きさからはあまり想像できない。
だから、これはもしかして。と私の中で一つの答えが導き出された。

「まさか、きん……」

もしかして、純金かもしれない。
こんな、どの世界でも高価なもの。置いていったというのか。お礼のつもりだったのだろうか。

「ばかな、忍さん……」

こんなもの置いていかれても、一生使う気もない。
ただ、彼のことを思いだす一つの材料になるだけだ。

後に父と母にこのことを話すと「彩が助けたのだから、自分で持っておきなさい」と言われた。
よってこの金色の小石たちは宝の持ち腐れとなり、私のお守り代わりにされることとなった。
 

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