何よりも甘いキスを。
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「ね、いいじゃない。リズ君お願い!」
「駄目だ」
「なんで?前働いていたところにもう一回雇ってもらうだけだよ?危ないところじゃないし…」
「駄目だ」
「なんでよ……!」
ふつふつと怒りにも似た感情が湧き上がってくる。
これは理不尽だ。
私は今リズ君に、お願いをしている。
……ううん、お伺いを立てているのだ。
この世界に来てから私はリズ君に会うまで働かせてもらっていたところでもう一度働きたいと思っていたし、すぐ働けるだろうと思っていた。
しかし、リズ君からOKが出ないのだ。
理由もはっきりしないまま、ただ、駄目だと言われる。
「……っリズ君は!」
急に私が大きな声を出したことにびっくりしたのだろう、リズ君が目を大きく見開いた。
そうだ、小さかった彼にはこんな声を出したことは無かった。でも、彼はもう大人なのだ。
そして私は彼よりもかなり生きてきた年月が少ない、所詮子供だ。
「リズ君はいいよね、私に言えないことは言わなくてもよくて。私も深くは聞かないし、それでいいって思ってる。でも、私は?何もしちゃ駄目?この家だけにいて、外の世界を
知っちゃいけない?」
「なまえ、それは……」
「そんなの!……そんなのただのエゴじゃない?リズ君のエゴだよ」
「なまえ……」
「ごめん、駄目だ私。こんなの……こんな気持ちでここにいれない……」
ぽたりと涙がこぼれるのも構わずに、兎に角、兎に角ここから出ていきたいという思いだけで走り出す。
ここじゃなかったらどこでもいい。
山を下りて、気が付いたらリズ君に会うまで働いていた、与作さんのお店の前に立っていた。
息は切れ切れ、涙でボロボロ、そんな姿で現れた私を見て与作さんはそれはもう驚いた顔をして、店の中に入れてくれた。
(少しは困ればいいんだ、私がいなくなって)