何よりも甘いキスを。

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「ここですよ」

弁慶さんに付いて、たどり着いたのは立派なお屋敷の前だった。

「ず、随分立派なお宅ですね……」

「まあ、僕の家ではないのですがね」

苦笑しながら家の中に入っていく弁慶さん。
私もそれに倣い、おじゃましますと入っていく。

リズ君の家と比べるのはアレだが、ここは豪邸だ。
お庭も立派で手入れも行き届いている。



「さあ、どうぞなまえさん」

広間のような所に案内される。
この前庵に来ていた方たちがいるが、そこにリズ君はいなかった。

「お、おじゃましてます……あの、リズ君は、」

「リズ先生なら庭の方にいったよー」

お腹を出した服装の方がそう教えてくれる。
だ、大丈夫かな。お腹冷やしたりしないのかな。

「あ、りがとうございます」

そして私は庭の方に続く縁側へと踏み出した。




「リズ君……」

リズ君は縁側にいた。
部屋から縁側に踏み出した、すぐ近くに座っていた。

「なまえ、」

「リズ君、私ね、リズ君のことを知りたいの」

「なまえ、」

リズ君の顔が苦しそうに歪む。

「リズ君が、私のことを思って隠してるのはわかるの。でも、わたしっ」

ぽろりと眼の端から涙が落ちる。

「リズ君が私に隠してることがあると思うと、っ、苦しくて、つらくて、」

ぽろぽろと止まらない涙は私の頬を伝って落ちる。
首筋が、胸元が冷たいから、着物にも随分と染みているんだろう。

「私、リズ君と同じ痛みを共有できるんだったらその方が全然いいよ。なにも言われないほうが、よっぽど痛いよ……」

最後の方の言葉は尻すぼみに小さく消えていった。
同じように顔も段々とうつむいていった。



「なまえ、」

ふと、頬に温かいものが触れる。リズ君の声が降ってくる。
私がゆっくりと顔を上げると、リズ君は私の頬を流れる涙を拭ってくれた。
そして、ぎゅう、と抱き寄せられる。

「すまない、なまえ、悪かった。私が心配を掛けたくないと思って言っていなかったが、そのことでなまえを傷つけていた」

「リズ君……」

「好きだ。なまえが好きなんだ。だから……、……きらいに、ならないで」

ふと、小さなリズ君を思い出した。
体も、声も大人になったけど、彼は元々嫌われるのが怖くて、臆病な子だったじゃないか。
私を、あんなにも頼って、好いていてくれたじゃないか。

「私も、リズ君が好きよ……」

そう自分で言って、ふ、と心にその言葉が落ちてきた。
そうか、リズ君が私に隠し事をしているのが嫌だったのも、女の子と楽しげに話しているのが嫌だったのも、そういうことじゃないか。

「リズ君が、大好きよ。……嫌いになんてなるわけないの」

そして、未だ私の頬を拭っているリズ君の手にキスを落とした。

(やっと、気づけた)
 

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