銀魂

□血の香りがする
1ページ/2ページ




りがする






「はっ、はっ、」


息が落ち着かない。
心臓もドキドキして、まるで体を落ち着けるのを嫌がっているようだ。
胸の中は肺やら胃やらを落としてしまったかのように穴を感じた。
足は膝が妙に熱くて、腕は自分のものでないかのように固まる。


「あ、」


ぶるり、と背筋震えた。

持つ刀から刃を伝って来た血が、手を濡らす感触に。
もう顔も服も返り血を浴びて真っ赤だったけれども、私はどうしようもなく嫌悪を感じた。

柄から片手を放して服で拭う。
ほとんど意味などなかったが、私はごしごしと拭く。


「……どうした」


暗闇から男の声。

その声色は心配そうではなかったが、気を使ったような口調だ。


「晋、助」

「服も血で濡れてんだろ。意味ねぇよ」


暗闇から現れる体。
白い肌と派手な着物が浮かび出て、一瞬幽霊のように見えた。

晋助はすたすたと足を進めて私に近寄る。
そして白い布を差し出された。

良く見れば、晋助は全くと言っていいほど先ほどと同じ。
彼も私と同様に、いやそれ以上の数の敵を叩き切っていたにも関わらず。
返り血で上から下まで真っ赤な私とは大違いだ。


「どうした」


さっきと同じ言葉。
けれど私は無言で布を受け取り、軽く顔を拭く。

白い布が、赤く染まる。


「……怖いか?」


ぼんやりとそれを見つめていると、晋助はまた口を開いた。


「人を斬るのが怖いか?」


彼の視線が血まみれの刀へ注がれる。

私が人を斬るのが怖いか、だって。
怖いに決まっていた。

一度目の肉を切る感触。
何度かそれを繰り返すと、刃が切れなくなって。
最後には血に濡れた刀で人の体を突き刺すのだ。

心臓の動きに合わせて腹から流れる大量の血液。
痛みに叫ぶ男ども。
どこか別の場所を眺める濁った瞳。

吐き気がするくらい嫌いで、怖かった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ