銀魂

□潤わぬ男
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私が初めて彼に会ったのは、今では名すら思い出すこともない宇宙海賊に捕まった時のこと。

へまをして、けれど女だからだと生け捕りにされ。
その先にあるのは絶望だとばかり思っていた。

敵対する者の手に落ちた女が、どんな扱いを受けるかは火を見るより明らかだ。
舌でも噛み切ってやろうとぐっと歯に力を入れた瞬間、壁をぶち破って部屋に飛び込んで来たのは一人の少年。

長い髪を一つに縛り三つ編みにして垂らし、その手には見慣れぬ傘を持っていた。

「あらら、ここは外れ?」

突然の侵入者に驚きすぐさま戦闘態勢に入った私の敵たちにも、余り興味はないようだった。
だががんじがらめにされている私につ、と目を向けると、信用ならない笑みを浮かべる。

「随分イイ趣味してんだね。プレイか何かかい?」

その視線と言葉が向けられた瞬間、私は悟る。
この少年はこの場の誰よりも強い、誰にも敵わない。


そして何かが、ひどく渇いているのだと。



潤わぬ男




本当に一瞬でケリがついた。

この部屋で息をしているのは、私と、その状況を作った彼のみ。
突然現れた少年に掛かって行った男達は、見るも無残な状態と化している。

「もうちょっと楽しめると思ったのに」

残念そうにつぶやいた彼は、血だらけになった手をぺろりと舐めた。
けれど味か何かが気に食わなかったのか、すぐさま吐き出す仕草をする。

なら始めからするなよ、馬鹿かお前。
反射的に頭の中でツッコミを入れてしまい、思わず吹き出しそうになった。

けれどさすがに、こんな惨状を生み出した男の前でそんな行為はしない。
失礼だと、思うのだ。

この強さは普通ではない。
けれどこの目の前の少年は、決してそれに満足していないようであった。
だからこそ、先ほどの楽しむ云々の発言があったのだろう。

この強さに、憧れないものがいるだろうか。

「……何、笑ってんだい?」

じっと少年の様子を見つめていると、彼はこちらに視線を向けた。
今だその顔には笑みが浮かんでいるが、随分とつまらなそうではある。

「あ、いや、強いなぁと思いまして」

考えていたことを素直に口にしてみせれば、少年は不思議そうに首を傾げた。

「あんた、この惨状なんとも思わないわけ?」

まあ言葉のとおり、結構悲惨ではある。

悲惨ではあるが、私にはどうでもいいことだ。
自分を碌でもない扱いをしようとしていた奴等のことなど、そう気にしてやれるほど心は広くない。

「いや、何というか、弱かったから仕方ないんじゃないですか?」

「……ふーん」

私の答えを聞いた少年の感想はそれだけ。
そのまま彼は穴の開いた壁へ向かい、外へ出て行ってしまう。
縛られて動けない私を放って。

何というか、自由な人だ。
きっと何者にも、彼を止めることはできないのだろう。

名前くらい聞きたかったと眼を伏せ、それから隠し持っていた短刀で縄を切る。
バラバラになった縄が床に散らばり、私の腕は自由になった。

すると再び聞こえてくる足音。
足音というより、瓦礫を歩く際に踏み付ける音だが。

「あ、いたいた」

壁の穴から顔を出したのは、さっきの少年だ。

「どうも」

こちらは何となく会釈をし、戻って来た彼を見つめる。

どうしたのだろう。
私を殺しにでもきたのだろうか。
ああ、でもそれもいいかもしれない。

けれど彼は、全く予想外の言葉をつむいだ。

「俺は神威。で、あんた、俺と来る気ない?」

「……喜んで」

即答とは言えなかったが、それでも固まったのはたった数コンマ。
神威と名乗った少年は満足そうに頷いた後、ちょっと恐ろしいことを言い放つ。

「考え込んだら殺そうと思ってた」

「……ああ、それはなかなかぶっ飛んでますね」

断るのではなく考え込んだ時点でとは。
すると神威はちょっと真面目な表情になった。

「あんた、変わってるな」

これは褒め言葉として受け取っておこうと思う。

「神威さんほどではないと思いますよ」




fin...




「ところで神威さん、どうして私を拾ったんですか?」
「血に慣れてる女なんてなかなかいないから、何となく」

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