銀魂

□追い掛けっこ
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昼はじっとりと暑い江戸も、夜となればそれなりに涼しい風が吹くこの季節。

そんな中、暗闇に二人はいた。
彼らは互いに動くことなく、相手の行動を監視して。
片方は刀を腰にさし、もう片方は銃を一丁手に携えている。

刀を持っているのは男のようだ。
黒いかっちりした、何かの制服のようなものを着ている。

反対に、銃を携えたのは女のようだった。
独自にアレンジされた女物の着物を着崩し、動きやすくしている。



追い掛けっこ



「こんなとこで会うなんて奇遇ね」

「さすが七夕。さっそく願いごとが叶いやした」

にこりと笑った沖田に、私はほんの少し足を引いた。

高杉から、真選組のぶっ飛び加減は聞いているし、私自身もその被害にあっている。
出会ったら馬鹿なことを考えずにさっさとずらかれとは、経験上一番良い行動だからだ。

今まで何度か手を合わせることがあったこの男、沖田は、中でも危険な人間だったと思う。
一般人にも構わずにバズーカを乱射。
そうかと思えば、自分の上司へ照準を合わせたり。

とにかく常識が通用しない男だった。
まだ近藤や土方の方が、対峙しやすいかもしれない。

「……願いごとってガラじゃなさそうだけど」

「そうですかィ?俺はこれでも、そーいうイベントは大好きでね」

未だ抜かれていない沖田の腰の刀。
手すら掛けていない。

「そう、私もイベントは大好き。クリスマスか正月とか」

これなら、逃げられる。

話しながら見える範囲で辺りを確認した。
上手く家などの屋根に登ってしまえば、撒くのは簡単だ。
出来るだけ逸らさずにおいた視線を、逃げるために沖田から外す。
けれどその瞬間、彼は再び口を開いた。

「聞かねぇんですかィ、俺がした願いごと」

「別に。あなたには興味ないもの」

仕方なく視線を沖田へと戻す。
彼の手は、いつの間にか刀の柄へと移動していた。

「じゃあ、私は逃げさせてもらうけど」

刀を抜かれたら厄介だ。
そう思ったのに、聞こえた言葉に身体が固まった。

「今日、あんたを斬れますように」

沖田の刀の柄を持つ手から目が放せなくなる。

どこまでが本気なのか。

そう考えるも、その声に冗談を含んだものは感じられなくて。
背筋に寒気が走る。

逃げなければ、こいつは危険だ。

「ってのは冗談で」

じゃりと地面と砂が擦れる音。
沖田が、ひどく楽しそうに笑った。

「あんたが俺に、捕まってくれますようにってね」

一歩、沖田が踏み出した。
彼の手元が光ったと思えば、それは刀。

視覚で確認したと同時に、何も考えずに身を引く。
これは本能だ。

「っ!」

刀が大事な銃を掠っていく。
もし身を引いていなかったら、銃はどこかに飛ばされてしまったに違いない。

「……流石」

感心したように沖田はつぶやくが、こちらにしてみれば何が流石だ。
私は彼の動きの最初の一歩しか見ることができなかった。

正面に対峙すれば、確実に捕まる。
逃げられる気がしない。
ごくりと唾を飲み込んで、できる限り気持ちを落ち着かせる。
最良の行動を弾き出す為に。

しかしそんな私の考えを知ってか知らずか、沖田はにこりと笑う。
そして、彼の本気を聞く。

「なに、俺に捕まっても、悪いようにはしませんぜ」




追い掛けっこが、幕を開ける。




fin...




捕まるのは時間の問題。


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