SLAM DUNK

□SS
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砂浜と夏の青い空

いつからと言われればきっと初めて会った体育館
自覚も何も無かったけれど

春の体育館
一斉に並べられた新入部員
その列は180、190の高さの揃う中、幾つかの谷がぽこんぽこんと出来ていた
二つ隣に出来た谷は他より薄い色素のせいか目をひいた

後で一年同士握手を交わした時の彼の射貫く様な強い視線から目を離せなかった
自分を通り越し遥か彼方を見通す様なその瞳を

「よろしく。」

そう一言呟くだけで精一杯な固まった俺の肩をぽんぽんと叩き、ははっと笑いながらよろしくと返してきた
見上げる瞳の前で己の小ささを悟った

四季を感じるのは試合の名前
あっと言う間に季節は流れた

先輩に混じる彼の背中を目で追う一年
ベンチでプレイ中の生き生きとした横顔を見詰めた二年
同じコートで彼の指示を視線で感じた三年

ただただあのまあるい茶の後頭部を追っていた日々
高校生活はと聞かれればバスケだけ
そんな毎日

それだけで満たされた
恋かと言われたらきっと違う
うっすらそんな自覚はある

彼の視線を追えば今まではテレビの中の物だったプレイが自分の物となる
高性能な頭脳を手に入れた
きっとそんな感覚

気付いた時には彼の隣が定位置となっていた

「花形、明日浜ラン行こうぜ。」

滅多にないオフの前日
俺にだけ与えられた練習メニュー
二つ返事でああとだけ応えた

初夏の海岸はサーファーや犬の散歩に来る人位でそこまで混み合っていなかった
端っこに自転車二台がしゃんと並べて置いて靴の紐を結び直す

ゆっくりとゆっくりと彼は砂の上を跳ねる様に軽やかに走り出した
陽に透けて何時もより明るく見える髪はオレンジ色をしていた
きらきら光る海面とくすみのないこのオレンジで毎年ああ今年も夏が来たと思う

何時間か走ると次第に口数も減りただ額から流れ落ちる汗を拭うだけ
拭う腕の下にある顔は眉間に少し皺を寄せ試合中のそれと同じ物
その時の顔を誇らしく思う反面他の誰にも見せたくないとも思う
子供染みた独占欲

鳩尾の奥がきゅうっと締め付けられた時恋心を自覚した
高校生特有の錯覚の様な熱病みたいな物だとしても友愛と呼ぶには足りなくて

夏の陽射しよりも輝いて見えてしまったらもう言い訳は出来ない

高校最後の夏
気付かれない様に波間に隠した淡い思い


end

花形視線
恋とか憧れとか色んな思いが混じって悩むといい

2007.5.22 十夜
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