乱受け小説

□六年生×乱小説
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ダンッ!!!



「くっ……どうすれば…っ!!ι」



机に額を叩き付け、頭を抱えて唸る文次郎をクラスメイトは遠巻きに見つめていた。
当の文次郎は気付いていないのか周りを気にしていないだけなのか、奇行を自重するつもりは無いらしい。

今の文次郎の頭の中は、ある問題の事で一杯なのである。

その問題とは…


「どうすれば、自然に花火に誘えるんだ…ッ!!ι」


そう、明日の夜に行われる学園長主催の花火大会に、どうやって乱太郎を誘おうか、という問題だ。



苦難の末乱太郎と恋仲になったのは良いが、自分の性格上ベタベタした付き合いなど出来るはずも無く。
付き合い始めて1ヶ月、未だに手を繋ぐだけに留まっていた。


文次郎と恋仲になった今でも学園中の人間から好意を向けられている乱太郎の事だ、きちんと「二人きりで花火を見ないか」と約束を取り付けないと、大勢の人間と一緒に花火を見るハメになるだろう。


それなのに。


ここ一週間、花火に誘おうと声を掛けるには掛けたが「二人きりで一緒に花火を見ないか」の台詞が出てこず、いつも訳の分からない誤魔化しをしてしまっていた。


「っ…あぁぁー!!何故俺は素直に誘えないんだ!!!ι」

「まったくだな、文次郎」


いつの間にやら隣に腰掛けていた仙蔵を見て、文次郎は口を噤む。
恋敵であった仙蔵が協力などしてくれる筈はない、こうやって声を掛けてくる時は、大概文次郎への嫌味等をツラツラと述べる為である。


「な、何か用か、仙蔵ι」

「何か用か、じゃないぞ文次郎。お前、まだ乱太郎を花火に誘っていなかったのか?」

「さ、誘っていないからなんだ!!お前には関係無いだろう!!ι」


ヘタレだ、何だと文句を言われる前に姿を消そうと立ち上がる文次郎に、仙蔵は溜め息混じりに呟く。


「お前がまだ誘っていないというのなら、乱太郎が言っていた“先約”とは誰なのだろうな」


「………は?」

「2、3日前に花火を一緒にみようと誘ってみたのだが、『先約があるからごめんなさい』と断られたのだ。お前がまだ誘っていないとしたら、乱太郎が一緒に花火を見る約束をした相手は誰なのだろうな…?」


含みのある笑みを浮かべた仙蔵を忌々しく見下ろし、盛大な舌打ちすると文次郎は駆け出した。
廊下を駆け抜け、一年の教室を目指す。


其処でふと、今日の昼休みは保健委員の当番で医務室に居なければならないと言われた事を思い出した。
行き先を変更して、再び走り始める。


廊下を走るな!の貼り紙など、最早目に入らなかった。





「乱太郎ッ!!」

「も、文次郎先輩…?どうかされたんですか?ι」


スパーンッと勢い良く開け放たれた障子戸へ視線を向け、次いでその戸を開けた文次郎へ目を向ける。
こんなに取り乱した様子の文次郎を見た事が無かった乱太郎は、唯々目を見開いて驚くばかりだ。


「何処かお怪我でも…」

「乱太郎!!!」

「は、はいっ!!ι」


怪我でもしたのかと心配して近寄ってきた乱太郎の肩を掴み、真剣な瞳で見下ろす。
自然と大きくなってしまう声には気付いていたが、其れを直す気遣いなどしていられなかった。


「俺以外の奴の所になど、行かせないからな!!」

「………え…?」


言葉の意味が分からない、と言いた気に首を傾げた乱太郎に御構い無く、文次郎は言葉を続けた。


「お前が付き合っているのは俺だろう?!他の奴と花火を見るな!!」

「ちょ、ちょっと待って下さい!!文次郎先輩、何か勘違いなさってません…?ι」


慌てて制止の言葉を掛けた乱太郎を前に、文次郎は動きを止める。勘違いとは、どういう事なのだろうか。


「私が花火を一緒に見るという約束を交わすとしたら、文次郎先輩以外ありえません」

「な…?!し、しかし俺はまだ誘ってないぞ?!ι」

「誘おうとは、して下さっていたでしょう?」


不自然なまでに顔を赤くしながら
「乱太郎!!は、花、花…っ!!///ι」
「花…?」
「…花が綺麗だな!!///ι」
「…?そうですね、今年も朝顔が綺麗に咲いてますね」
等と毎回明らかな誤魔化しをされていたら、誰でも気付く。
花火に誘おうとしているのかな、と。


「誘って下さると分かっている以上、それは既に立派な“約束”ですよね?」


だから他の方々の誘いは断ったんです、と微笑む乱太郎を見下ろす文次郎の顔は、言わずもがな真っ赤で。
嬉しいやら恥ずかしいやら情けないやらで、口を開いても言葉が出てこなかった。


「文次郎先輩、私に何か言うことがありますよね…?」


にっこり笑顔で促してくれる乱太郎に助けられ、文次郎は意を決して乱太郎と向き直る。
翡翠の瞳をじっと見つめ、顔に熱が溜まっていくのを感じながらも口を開いた。


「乱太郎、俺と…は、花火を見ないか?!///ι」

「はい、歓んで」


嬉しそうに諾と言ってくれた乱太郎を抱き締め、今度からはきちんと自分から誘えるようにしようと心に誓う文次郎だった。






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