日常の断片
□グレイ・ゾーン
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灰色の空は、嫌い。
空が暗いと、どうしようもなく不安になるから。
グレイ・ゾーン
見慣れた天井。シーリングからこぼれる、だいだい色の光。霜月ともなると、やはり寒い。
横を向けば、口を開けて寝ている透治の顔が目の前に。
その整った顔の造りに心を揺さぶられることは少なくなった。
あどけない寝顔も、屈託のない笑顔も、真剣な顔も。
そのどれもをいとおしく思いこそすれ、たぎるような思いにかられることはなくなった。
これが愛情ってやつなのかも。
その思いを口に出してみる。あい。うん、悪くない響きだ。
「のばら?……」
隣でぐっすりと寝ていたはずの透治が、眩しそうに片目を開ける。
せっかく仕事が休みなのだから、ゆっくりと寝ていたらいいのに。
もしかして、私の独り言で起きてしまったのだろうか。
そんな私の心配を余所に、くぁ、と大きくあくびをかいた透治の顎には、うっすらと無精が施されている。それもまた艶っぽい。これは、恋か。
「何時?」
少し涙のにじんだ双眸を私に向ける。胸中、沸騰しそうな程。
「あ、ええと」
半身を起こして壁掛け時計の針を読むのにも、時間が必要。やはり、恋だ。
「七時過ぎ、かな」
時計からの情報を透治に伝え、再びベッドへ沈んでみる。仰向けになった私の体は、透治によって引き寄せられる。素肌が触れ合う感触が心地よい。数分もしないうちに、私はまどろみの中へと片足を踏み込ませた。
恋か、愛か。なんだかそんなことを考えていた自分が馬鹿らしくなる。
どちらにせよ、私は透治のことが好きなのだから。
そんなことを頭にめぐらせていたのは、きっと空が灰色だから。
不意に私の首の下に伸びてきた、透治の腕に頭を乗せ、私は完全に意識を手放した。