日常の断片
□雪の季節
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雪の降る季節になると、僕は彼女を思い出す。
雪のように儚く、僕の前からいなくなってしまった彼女。
その日は、ひどい雪で、外はまさに白銀の世界。それでも尚降り積もる雪を、僕と彼女はゆったりとした時間の中で眺めていた。
「ね、亜紗美。今度の春、結婚しようか?」
「耕太郎?」
そっと彼女を抱き寄せて、外の雪から彼女に視線を移した。
彼女は不思議そうな表情を見せている。
「何、不満?」
「いや、そうじゃなくて……」
なんだか眉間に皺を寄せて視線を下に向けている彼女の顎に手をかけて、上を向かせる。
そしてそっと唇を寄せた。
「そうやって強引に持っていくんだから」
唇を話した直後に、彼女はむくれて僕の頬をつまんだ。
けれどその表情はすっかり明るくなっていて、僕は安心した。
彼女が僕の頬をつまみながら、花が開くように笑ってくれたから。
翌日。
彼女は姿を消してしまった。
ごめんね。と書かれた手紙を残して。