日常の断片

□出会いの初恋
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 何考えてるの?・ん?・また聞いてなかったの?・ごめん・別にいいけど。次の休みはどこに行く?・そうだな……



 それは俺がまだ自分のことを僕と呼んでいた頃。
 僕は世界と出会った。


 夏の盛り、うだるように暑い昼、太陽ははるか高いところから僕を見下ろしている。太陽はその頃の僕にとって脅威でしかなかった。僕はこの暑さの中で干からびてしまうのではないかという錯覚に陥ってしまう。そこから逃れるべく自分の家と公園をつなぐ道をふらふらとしながらも歩きだした。大きくなって分かったのだが、公園と自分の家は歩いて5分とかからない。しかし小さい僕には遠く長い道のりであった。

 家までの距離を半分くらいまで縮めたとき、急に視界が暗くなった。そのまま何かむわっとする匂いに囲まれて、悪い予感が走る。ふと空を見上げると僕から水分を奪っていた太陽が姿を消して、重たそうな雲が落ちてきそうだった。あぁ、雲が降ってくる。

 仕方ないから、潰れたコインランドリーの屋根の下、この雨が止むまで休憩。

 改めて周りを見ると、断続的に降る雨によって紗がかかったような新しい世界が広がっている。幻想的ともいえるその世界は静かに僕の心に染みていく。僕はいつの間にか水分を取り戻していた。これもきっと、雨のせい。

 潰れたコインランドリーの屋根の下、視界が明るくなる頃、世界は赤かった。

 僕が再び歩き出すことを決意したのは雲が役目を終えて遠い世界へ旅立つのとほぼ同時だった。水分を吸収することしか頭にない意地悪な太陽はすっかりその勢力を失って、淡い光を優しく地上に届けていた。植物たちはその光を存分に吸って雲の贈り物を美しく飾らせていた。僕は太陽の最後を見届けようと決心した。

 家の玄関の塀の上、山間に埋葬される太陽を見て、どうしてだか涙が溢れそうに。
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