お題小説

□誰よりも優しく
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 あなたは僕を優しく起こす。朝が来たことを優しく諭す。それが僕にとっての人生の始まり。

 あなたは物静かであまり話す事をしない。優しく暖かく、生を受けたばかりの僕を包み込んで明るく照らす。あまりに眩しくて時折くらくらしてしまうけど。 それでも僕は日増しに成長を続けていくんだ。

 あなたと出会って二ヵ月が経とうかという頃、ある日を境にあなたはぱったり姿を消した。僕の世界はどんよりと暗くなり、涙を流してあなたを追い求めた。それでもあなたは姿を見せてくれない。

 夜が終わることの無いものかのように思え、僕は死んでしまうだろうと悲しくも自覚した。気付けば一ヵ月近くを泣いて過ごしていた。そしてまた泣いていたある日の夜明け前、うっすらと視界の端にあなたを見つけた。

 成長したわね、と優しく微笑むあなたをはっきりと確認すると、僕はもう、あなたしか見えなくなっていたんだ。何故いなくなったの、と聞きたかったけど。あなたが戻ってきてくれた嬉しさを前に、悲しさは飛んでいってしまった。

 それからの日々は熱かった。あなたに焦がれてずっとあなたを求め、あなたがいなくなるとやっぱり泣いてしまうんだ。そしてあなたが表れると僕の涙に濡れた姿を優しく包んで癒してくれる。僕はあなたのおかげで人生の最高に幸せな瞬間を味わえたんだ。ありがとう…


 僕はあなたに夢中だったんだ。


 でも。


 でも、何でだろう。いつからかそうやって毎日を過ごすのが辛くなっていってしまった。

 僕は生きるのに疲れた。あなたを愛し、焦がれて、狂おしいまでに求めた。それなのに僕は、あなたが最近優しさを脱ぎ捨てて激しさをあらわにしているように感じる。そんなあなたに、僕は、喰われた。

 近々死を迎えるだろう。激しく僕を見つめるあなたにそっと告げる。

 あなたとの生活に限界を感じ、いよいよという時が来た時になって、なんとなくあなたが以前の優しさを取り戻しつつあるように思えた。僕の体は水分が無くなってしまったらしく、今にも折れそうで無残な姿だった。できればこんな僕は見られたくなかったのにな。

 僕は静かに目を閉じた。すると、何で今まで気付かなかったんだろう。あなたとの子供が私にしがみついているのを感じる。この子達を頼むよ、そう呟くとあなたは今までにないくらいの優しい光を僕に向けてくれる。

 僕は幸せだったよ。あなたを愛して、あなたに愛されて。


 願わくはあなたの誰よりも優しいその光が永遠に続きますように…





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