お題小説

□青、硝子、帽子
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 最近だったら、もっとお洒落な麦藁帽子もごろごろ売っているだろうに、宮緒は、農作業をしているおじちゃんがかぶっているような、古びた麦藁帽子をいつも離さなかった。なんだって、そんなもの。その言葉は、喉を通りはしても、口から出てくることはない。なんだって、そんなもの。もう一度胸の中で唱えてみるも、やはり、声に出てこない。

「宮緒」
 宮緒はそのすらりとした体躯をこちらに向けて、波打ち際ぎりぎりの所から大きく手を振った。やってきた波に足首を呑まれ、宮緒はまたも、嬌声をあげていた。

 中学も最後の学年になると、もう大分大人の仲間入りをしているもんだと思う。実際に、宮緒の周りにいる人間は、最早子どもとは呼べなかった。大人とは呼べない、けれど子どもでもない雰囲気が、この微妙な年齢の人間を妙に大人びて見せるのだろう。

「何? かっちん」
 私の元に走って来て、白い歯を剥き出しにする宮緒は、その集団の中でも特殊である。あか抜けない、その純白を連想させる雰囲気が、大人の一歩すら刻んでいないようで、完全に周囲から浮き立ってしまっていた。それ故に宮緒は、同級生の女の子からも男の子からも、同い年なのにも係らず、年の離れた妹か何かのような扱いを受けており、本人もまた、その立ち位置に安心しているようだった。

「帽子。きちんとかぶらなきゃ」
 私は諭すように、宮緒に言う。それでも宮緒はにこにこと笑ったまま。
 あごひもがだらしなく伸びて、それを引っ張ろうとする宮緒を止める。すると、宮緒はけらけらと笑い出し、私をどうしようもない気持ちにさせる。

「ね、かっちん。みや、岩場に行きたい」
 宮緒はそう言って、私のTシャツの裾を引っ張る。この広い砂浜から、岩場に出るまで一体どれくらい歩けというのか。私はそんな宮緒の無邪気さをかわいらしいと思いつつ、ひどく疲れたような、うんざりとした気持ちも抱く。
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