お題小説
□赤、林檎、唇
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「生肉!」
うるさい。
目の前の男は、非常に、うるさい。
たかだか、肉を生で食べているだけではないか。わたくしの趣味に口を出すな。
新鮮でおいしい牛肉が手に入ったと言って、このばか者はわたくしを自宅に招待した。
そして。あろうことか、その赤々とした、血の滴りそうなうまそうな肉を、熱したフライパンに放り込もうとしたのである。
「馬鹿。新鮮な肉は生で食うもんだろ?」
ばか者の手から肉を奪い取り、サラダ菜の乗ったプレートに乗せた。
わたくしの突然の動作に、ばか者は口を開きっぱなし。みっともない。
「めめちゃん、本当に生で食べるの?」
「うるさい。その名前で呼ぶな」
「はぁ……」
弱々しい声を出すばか者、もとい、坂元――名前は忘れた――に一瞥をくれると、わたくしは自分のプレートを持って、さっさとテーブルについた。
「めめちゃん」
「うるさい」
何度言っても、坂元はわたくしのことをめめちゃんと呼ぶ。わたくしはそんな弱っちい名前なんかじゃない。
「めめちゃん」
尚もわたくしを呼ぶ声に、とうとうわたくしは無視を決め込んだ。
「表面だけでも焼かない?」
「……」
坂元を無視して意気揚揚と肉にナイフを入れる。赤い身がとても美味しそう。