お題小説
□氷の化石
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「ねぇ、水琴」
清潔感溢れる白い壁紙に白い天井。そして柔らかい照明。その中で柔らかい微笑を浮かべている母は、とても入院患者には見えなかった。
「ん? 何?」
僕は母に背を向けて、持ってきた花を花瓶に生けようとしながら言った。
「ちょっとこっち来て」
「もう少し待ってよ、すぐ終わらせるからさ」
「もう……」
僕からは母の顔は見えないけれど、きっと母は少女のように頬を膨らませているに違いないだろう。
花を生け終えて、母の方に向き直ると、母は、病室の窓をじっと見ていた。視線の先には一匹のハエが窓に張り付いて動かない。
「で? どうしたの?」
母はそっと起き上がり、僕に小さな包みを差し出した。
「何?」
小さな包みをうけとり、そっと開ける。中にはピアスが入っていた。
ピアスにしては少し大きめの石の乗った、シンプルなピアス。
「それ、クリスタルよ?」
「えっ!? クリスタルって高いんでしょ? 買ったの?」
「買ったのはお父さんよ」
そう言って母はくすりと笑った。
「え、父さんからプレゼント?」
「なに言ってるのよ、もう……」
「だって……」