お題小説
□中毒の予防
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1.不安と現実
彼が帰ってこなくなった。どこにいるのか大体の検討はつくけど、私はそこに踏み込む勇気なんて無い。
私に出来ることなんて、彼のための夕食を作って待ってるくらいしかないから、いつも仕事から早めに帰宅するようにしている。
昔はこんなんじゃなかったのに。
男のために夕食を作って待ってるような女じゃなかったのに。
ロバートに対して、私はいつからこんなに弱くなってしまったのだろう。眠れない夜を過ごし、寂しくて泣き出す日だって少なくない。
付き合いだした頃は金銭的な立場の差からか、ロバートは相当萎縮していた。それが、椿という女に出会ってからくるりと変わってしまったのだ。
椿とロバートは居酒屋で出会った。ロバートが安いことを理由によく行きたがるお店で、焼酎のキープもしてある。
椿はジントニックを飲んでいた。しかし、グラスの中身は半分も減らないまま放っとかれて、もう手を付けられることはなかった。私はそれを見ていてこの女の子が気に入った。私よりいくらか若いであろうこの女の子は、きっとお酒の味が判るいい女なのだろうことを確信した。
男だろうと女だろうと上等な人間は大好きだから、私はそういう人間と付き合おうとする。ロバートにしても椿にしても。しかし、私は大切なことを失念していた。ロバートは男で、椿は女だ。私好みのこの二人が――視線で会話できる二人が――恋に落ちない可能性なんて無い。
すぐに二人の関係は始まった。
椿は私に悪いなんて感じていないようだった。ロバートのことをヒモだなんて言い放ったことが椿の罪悪感を消し去ってしまったようだ。
本当にヒモだなんて思っているわけじゃないのに。ロバートを少し困らせてやりたくて言っただけなのに。
私はいつも歪んだ愛情表現しか出来ない。