お題小説

□誰にも言わないで
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 パチパチと何かを弾くような音と共に、灰皿の中で燃えていく様を私は無表情で見つめていた。


 On Sunday.


 日曜日、雨。いつものようにベッドから起き上がる。今日は会社も休みだから朝寝をしたって構わないのに、やっぱり決まった時間に起きてしまう。少し悔しい。

 コーヒーを淹れて、パンをトースターにセットする。レタスとトマトを皿に乗せ、スクランブルエッグを作る。簡単な朝食。一人でとる朝食。彼と長いこと朝食を取ってないことに気付くが、私は薄く笑うだけ。もう関係ない。

 来週の今日、私は出て行くって決めたから。


 今日は外出の予定が無い。着々と準備を進められる。でも、万が一帰ってきて、出て行くことがばれたら…。私は荷物の整理をするのは木曜を過ぎてから、と決めた。それまではゆっくり最後の生活を楽しもうと思うことにした。


 夜。今日はもう帰ってこないことを確信して、アルバムを引っ張り出す。
 私と彼はそのフレームの中で幸せそうに笑っている。


 こんな笑顔はもう見ることができない。


 そう思うと、急に憎らしくなって、アルバムの中の写真を全部はがした。一枚を手に取りライターで火をつける。隅のほうから走り出した火は、勢いに乗って燃え上がり、取り返しのつかないことを私に告げる。

 全部燃やし尽くして、私は眠りにつく。何かが私の中で弾けた。

 今夜はすごく幸せな夢を見られる気がした。
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