【桜乱】Short S

□節分改革
2ページ/3ページ






「やっぱりここはお面被らないとね!」
「はいはい……」
 鬼役、観念したようだ。
「お面あたし用意した!」
 美紗紀が取り出したのはよく節分シーズンで目にする普通の紙製の鬼のお面。ただ鬼の顔が"(´・ω・`)<ショボーン>"になっている。
 それを渋々装着する葉一。
「これでよし!」
「おぉ雰囲気ばっちり!」
「可愛いです!」
「でも何かを訴えるような表情ですね」
 思い思いの感想が飛び交う。最後は瑠海だ。
「ねぇ、マヌケになった気がするのは俺だけ?」
「その顔でこっち見ないでください」
 声には若干振動が入る。洸也が笑いをこらえているせいだ。
「葉一さんショボーンって……顔して……あっはははは!」
 その横で沙夜は、腹を抱えて容赦なく笑う。嘲笑う気持ちではなく沙夜にとって純粋に面白いものだったから。
「……」
 ……ショボーン。葉一が心なしか少し俯き加減になった。
「さて、じゃあ豆まき開始しますか!」
 6人、豆の準備は一応OK。しかし、(´・ω・`)<あんな>顔した鬼に豆を当てようというのだから、それはそれでひどい。
「こうなりゃやけだ! えっと……えっと……かかって来い!」
 節分の鬼ってそういえば何を言うんだっけ。
「せーの」
「「福は内ー鬼は外ー福は内ー鬼は外ー」」
「……、いたっ……、……」
 宙を舞う豆、叩き付けられる豆、服の上に当たっているのに……地味に痛い。
 そして絵も地味だ。
「何か……地味です」
 耐えられず口を開いたのは由佳利だった。
「でも節分ってこういうものだよ?」
 洸也は投げるつもりだったその豆を口に放り込む。あおいは腕を組み考える。
「じゃあ投げるもの変えてみる?」
「例えば?」
「自分の好きなものとか」
「じゃあゆーは、りんごがいいです!」
「りんごと当てられる俺<鬼>が可哀想だろ!」
 りんごはなかなかの強度があるだろう。その前に食べ物を粗末に扱ってはいけません。豆は今回例外で。
「由佳利ちゃん、それだと投げたりんごが無駄になっちゃう……」
「ハッ! ダメです! そんなのダメです!」
 洸也に言われるまでそのことに気付いてなかったようだ。
「とりあえず投げるもの変えるのはやめて。物によってはこっちの命が危なくなる……」
「えーじゃあ葉兄ぃは何かいい案あるの?」
「……鬼役変えてやらない?」
「それは置いといて」
 即答で置いとかれた。
「あれじゃない? お面だけだとまだ足りないんじゃないかな、雰囲気が」
「言うネ、洸也の分際で」
 あたしの作ったお面じゃ不足と、そうですか、はぁん。口に出さずとも目からそんな殺気のビームが出ているように洸也には感じられた。
 その美紗紀の殺気に当てられたせいか、いやまったく関係ない気もするが、突然洸也の中の何かのスイッチが入った。
 カチッ。
「服装だよ」
「「服装?」」
 復唱後みんなで葉一を見る。上は(´・ω・`)の描かれた鬼には見えない鬼のお面だが、顔から下を見てみるといつも通りのジャージ姿だった。
「ね? 顔から下は鬼じゃないでしょ?」
 確かに鬼というもののイメージにジャージはない気がする。
「じゃあ、どするん?」
「普通に考えたら縞柄のパンツとかだろうけど……ここはあえて」
「「あえて」」
「メイド服でいこう」
「んな!?」
「おぉ! 流石洸ちゃん! 逆転の発想だね!」
 あおいの中でどこらへんが逆なのかはあまり気にしないでおこう。
「葉一そういうの似合うからいいんじゃないです?」
 由佳利がニコニコしながら言う。似合う似合わないの問題ではないような。
 お面が喋るのに邪魔だと思ったのか一旦横にずらされる。そして抗議。
「待て待て何があえてだ! 何で仕事以外でそんな格好しなきゃいけないんだよ」
 葉一は普段ウェイターとして働く中、たまに店長あたりの策略で着せられているのだ、メイド服。
「なかなかいい改革だと思ったのに」
「もし実装されたらお前が鬼役になった時も適応だからな」
「それは嫌です! でも、葉一さんは似合うからいいでしょ!」
「似合っても嬉しくないよ! ここにまともな人間はいないのか!」
 まともと自分で発して葉一は瑠海の方を向く。
「……私は……、楽しければそれでいいかなと、思います」
 今度は沙夜の方を向く。豆を黙黙と食べていたが視線に気付くと少し苦笑い。
 お面を再び付け無言の訴えをすると、さすがに察してくれたようで弟の説得に回る。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ