【桜乱】Short S

□父(仮)に感謝を
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「ぁあああなすて起こしてくれなかったん!?」
 ドタドタと階段を駆け下りて現在地はリビング。制服は、急いで着たからきちんとしてるとは言いがたい。
「起こしたよ、4回も」
 荷物を横に置いて新聞を読んでいた葉一は、ムスッとしながら答えた。
 朝から機嫌が良くないようだ。
「今日は早く行かなきゃ言うたやん昨日!」
 葉一の飲んでいる紅茶の反対、用意されている朝食は少し温い。トーストも少し固い。でも温める時間なんて今はもったいない。
「起きないそっちが悪いんだ」
 葉一はそう言って立ち上がると新聞を大きな音をたてて閉じた。
 美紗紀はその行為を不愉快に感じた。
「何か感じ悪」
「なんだよ」
「別にー?」
 サラダをガッと食べてから、トーストとスクランブルエッグをオレンジジュースで流し込む。
「…弁当台所にあるから」
 バッグを肩にかけて玄関に向かおうとする葉一。それをわざと引き留める。
「時間ないからこっち持ってきてよ」
「俺だって時間ない」
 葉一は振り向くこともなくリビングを出、玄関へ。


 美紗紀は食器を片してお弁当をバッグに入れる。

 あぁもう時間に間に合わなそうだ。葉ちゃんがちゃんと起こしてくれていれば大丈夫だったかもしれないのに。


「…………いってきます」
 玄関から、あまり大きくない声が聞こえた。
 急いでいるはずの美紗紀の動きが止まる。

「……」

「……」







「……いってらっ――」
 言いかけると同時にバタンとドアの閉まる音。その後に鍵の音。




 …………なんだよ。




 頬を膨らませながら準備に戻る。








 分かってる。自分が悪いんだってことは。

 でも、何か…







 嫌な気分。





 昼休み。教室に帰ってくると、いつもよりにぎやかだった。

「いーや!無理だって!」
「んー何が<シェンモ>?」
 女子数人の会話に美紗紀も入る。
「お父さんよ!」
「お父さん?」
 1人が状況を説明してくれた。
「…で、お父さんのもの一緒に洗濯とか無理でしょ!…って話ーっ」
「…ほーん……」

 無理…って思うかなぁ?

「何か最近、お父さんのこと嫌なんだよね」
「え、嫌なの?」
「あー分かるかもーっ」

 しばらく会ってないから…、よく分からないや。

「ちゃんと勉強してるかーとかわざわざ部屋来るんだよ?ほっとけよって」
「何かやだーっ」
「加齢臭とかするしー」
「うわっ」
「加齢臭って、ウケるーっ」
 笑い声の中、美紗紀だけはいまいちついていけない。
「美紗紀はそういうのないのーっ?」
「うーん…家(うち)にはパパ、今いないからなぁ…」
「あぁ、そうなんだっけ?」
「うん。パパってか兄ちゃんみたいなのならいるけど」
 言い終わると美紗紀は目を細める。

 何か…朝のこと思い出しちゃった。
 ムスッとした顔で新聞見ながら紅茶飲んでて、紅茶がコーヒーだったらドラマに有りがちな“お父さん”だったよあれは。
 それならあたしも今日のお父さん…みたいなやつは嫌だな。

「あ、一昨日だかに商店街で見たかも!美紗紀、一緒に買い物してたでしょ?」
 1人が急に違う笑みを見せた。
「えっ、あ、うん」

 そういえば一昨日は一緒に行ったかも。
 クラスメートに見られてたって分かると何だか恥ずかしい。

「仲いいんだねっ」

 ぶくふッ!!

 心の中で吹き出してしまった。

「なっなななんなわけなかとよッ!今日だて喧嘩したし!」
「でも喧嘩するほど仲いいって言うよね」
「そうそう」
「何か聞いたことあるーっ」

 仲がいいなんてそんな

「言うだけそんなの!実際とは異なる場合だてある!」
「美紗紀何赤くなってんのっ」

 ホントよ、何で赤くなるの。訳分かんない。
 美紗紀は慌てて顔を隠した。





「お父さんって言えばさぁ」
 話は再び“お父さん”になっていた。聞いてた限りではあまりいい意見は飛ばなかったけれど。

「もうすぐ父の日なんだよね」
 美紗紀はカレンダーをちらっと見た。
「もうそんな時期なん?」
「マジ?何あげるかな…」
「毎年あるからあげるもんなくなってくるんだよね」
「「「あー分かる分かる」」」
「生活用品?」
「ハンカチ?」
「ネクタイとかはー?」
「あー去年あげたなぁ」


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