□『最悪な出会い』
1ページ/2ページ













感じるのは、お前が苦しんでいるという事実だけ。

交わした言葉は簡単なものだけで。

それだけでも俺はお前を必要としてるんだ。


たとえその手に、真っ赤な血が流れていたとしても。

お前の欲しがるものが俺じゃなくても。


一瞬だけでも俺をその目に映してくれるなら、それでいい。

深入りなんてしないから。

その悲しみを押し殺したりしないでくれ。

苦痛に歪むお前を見たいわけじゃねぇんだ。


優しい言葉を紡ぐその唇を。

去年も、今年も、変わらぬ想いを持つその心を。


冷たい水で浸したりしないでくれ。

他人なんて関係ない。

だから、俺の為に血を流したりしないでくれよ。




そういう俺は、現実から逃げているのかもしれない。

きっと大切なものを作りたくないんだ。

本当の気持ちを押し殺して、捻りつぶして、隠してる。


お前のこと言えないな。

でもやっぱり心の奥底で、お前の優しい言葉を待っているんだ。


その唇から紡がれる優しさを知って。

俺を必要としてくれる人の存在を知って。


曖昧な感情から抜け出した。

狂った想いは流されて、後に切ない砂だけを残していった。




ああ、やっぱり逃げていたんだ。

――大切なものを、もう二度と失いたくなくて


押し殺すのがつらかったんだ。

――誰かを必要としたくて


鋭い言葉を投げかけられるのを恐れていたんだ。

その美しい唇から。




俺がどれほど弱いか思い知った。




押し殺す感情と。


お前を思う、この感情と。


言葉に隠す感情と。


唇に薄く塗りつける感情を、








俺は全部、君に あの人に 教えてもらったんだ。

















With the frozen finger
  第九秘『最悪な出会い』
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ