水面に写る彼は。
□水彼1
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あれから相馬さんも仕事という名の暇に戻り、私もフロアに戻り接客をしていた。
そんなとき、フロアの奥の方から食器が割れるような音がした。
『・・・?』
そこには割れた食器が散らばっているだけで、犯人と思われる人の姿は見当たらなかった。
とりあえず『失礼しました』と謝るが、この場にいるのは私しかいないために私が割れた食器を片付けるしかない。
―ッ!
割れた食器をほうきとちりとりで掃除している途中、自分の不注意で人差し指を切ってしまった。
こんな不注意いつもならしないのに、と思いながらも割れた食器はきちんと処分した。
仕事中だったにも関わらず更衣室に入っては自分の鞄から救急セットを取り出す。
店にないこともないが、自分の見慣れたものを使った方が多少は信憑性もある。
切り傷に信憑性も糞もあるかなんて、そりゃあないけど。
万が一というのに備えて。
「あれ、立川さんも休憩?って…指どうしたの?」
すると休憩をもらった相馬さんが休憩室に来るなり指にさっそくも気遣いをくれた、気持ち悪い。
…まあ、少しは嬉しいなんて思ってしまったけど。
『珍しいですよね、自分でも驚きです』
「もしかしてさっき食器割ったのって立川さん?」
『違いますよ。現場には割れた食器だけが残ってて人は誰もいませんでした。』
「その事件みたいな言い方やめてよ」
なんて苦笑しながらいう相馬さんの顔が面白い。
いつもニコニコしてる人もこんな顔するんですね。
『だから私が処分しようと思ったらこの有り様です。もう余計な手出しはしないで見て見ぬふりを心がけようと思います』
「そっちの方が怒られると思うけどなぁ…」
なら相馬さんがやればいい。
食器で怪我したことないから言えるだけだっていうのに…。
でも佐藤さんに喝いれられてるからいいか。
フライパンって結構痛そうだしね。
『とりあえず私は仕事に戻りますね。休憩はまだまだなので』
「立川さん戻っちゃうのかー」
『何か用でもあるんです?』
「ほら、俺立川さんが休憩かと思って休憩いれたからさ」
・・・は?とか言いそうな形相してごめんなさい。