storyV
□蜃気楼
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砂漠の夜は冷え込む。
けれど、この身の震えは気温が寒いわけではない。
生姜湯を口にしても、厚手の毛布にくるまっても、止まることは無く、容赦無く私の体力と気力を奪っていく。
医療班の診断によれば、ただの流行り病だそうだ。
しかし、ただの流行り病といっても、自国にはそのウィルスに太刀打ち出来る薬を作るだけの薬草にも限りがある。
こんなとき、つくづく医療の分野をもっと強化できたら…と思考を廻らせる。
「ケホッ…ケホッ…」
次第に頭もぼんやりとし始め、瞼の裏に浮かぶのは、遠く離れた里のアイツの姿。
アイツが来てくれるわけでも無いのに…
病気は、身体だけでなく、心まで弱くしてしまうみたいで、普段はなんとも思わない事まで妙に不安になったりする。
私は、このまま奴と関係を続けていても良いのだろうか…
私も今年で二十歳になる、もう2年もすれば、行き遅れに分類されるだろう。
現に、その証拠に見合いの写真が日に日に増えていく、それこそ大名の息子から医者の息子など選り放題だ。
奈良が結婚してくれる保証もない、第一他里なのだから、私たちの意思だけではどうにもならない事もある。
それに、奈良だってまだ若い…アイツにとっては今からがスタートなようなモノだ。
『そろそろ引き際じゃないのか…?』
頭の片隅に追いやっていた言葉がこだまする。
確かにいずれ訪れるとわかっていた事だし、いざとなれば殺さなければいけないことだって覚悟して始めた関係なのに…
『肩が震えるのは何故?』
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