wonder Alice.

□20 待ち人
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▼フェイタン




「……」


 一人の部屋はこんなに広かったろうか。少し前まではあたりまえだったことなのに、今は違和感しかない。
 本当はまだ手元においておきたかった。
 それこそ縛り付けて閉じ込めてしまいたいほどだ。でも彼女があれほど懇願するから、気がついたら許可してしまっていた。


「あのさー、ヒナタがそう簡単にくたばるわけがないだろ」

「そんなことは分かてるね。
 でもヒソカ、ヒナタを気に入てる。私はそれが心配よ。
 ……後、勝手に家に入るのはやめて」

「はいはい」


 口先だけの男、シャルナークはお構いなしという感じで冷蔵庫をあさり出す。
 シャルナークがこっちに来るのは珍しい。何かあったのだろうか、と、視線だけで問えば、シャルは無言で首を振って否定した。
 ならいったいなんだというのだ。
 こっちはすぐにでも迎えに行きたいのを必死に抑えているというのに、いい迷惑だ。


 そんな気持ちを悟ったのか、シャルは不敵な笑みを浮かべた。

「俺がこっちに来たのは、ヒナタがいなくて今にでも飛び出しちゃいそうなフェイを宥めるためだよ」

「余計なお世話ね」

「それと、ヒナタとのデートの許可を取りに来た、りして」


 今の私にその手の冗談は命取りと知っての発言だろうか、射抜くような目でシャルナークを睨めば、やつはどこ吹く風というふうに肩をすくめるだけだった。


「迷子の女の子を保護した、優しき仲間へのお礼としてそれぐらいいいだろ?」

「いやね」

「どうせヒナタに頼まれたら断れないくせに」

「……ち」


 ヒナタのことだ。シャルに強く言われれば断れないだろう。
 まったく、目を話すとすぐにこうなる。私がいつもどんな気持ちになるか一度体に教えこんでやりたい。
 今頃、更に彼女は色んな人間を虜にしているのだろうか。

 想像だけでも腸が煮えくり返るというのに、ヒソカの電話もついでに思い出してしまい、耐え切れずに目の前の椅子を切り刻む。
 シャルは怒りの理由がわかっているせいか呆れたように息を吐いた。


「俺の情報だと試験ももうすぐ終わりだよ。ヒナタに内緒で迎えに行こうか。
 きっとめちゃくちゃ驚いて、めちゃくちゃ喜んでくれると思うよ」

「……行くのは私一人で十分よ。
 場所だけ教えて留守番してるといいね」

「そうはいかないよ。
 それにそんなこと言っていいの? もっと重要な情報を教えてあげようと思ったのに」


 わざとらしいシャルの言葉に思わず舌打ちする。こいつは私を宥めに来たのか、追い打ちを掛けに来たのか、おそらく後者だろう。


「クロロがヒナタに護衛を付けてあげたんだって。まあ、もう試験は終盤だし、なんでだろうって不思議だったんだ。
 それでしつこく聞いたら教えてくれたんだけど、どうやらその護衛するやつが自分からしつこく売り込んできたんだって」

「どういうことね」

「ヒナタの知り合いだってクロロは言ってたけど、そいつがあそこまで言うのは珍しくて、尚且つ面白そうだから護衛につけたんだってさ。
 クロロらしいっちゃクロロらしいけど」

「……知り合い。
 ヒナタの知り合い言うたか、名前は」


 嫌な予感に思わずシャルを問い詰める。


「驚くなよ、なんとあの暗殺一家の一人、長男のイルミ=ゾルディックだってさ!
 たまたまヒナタと同じくハンター試験を受けてたらしいんだよ」

「イルミ……」


 今の今まで忘れていた名前が、いけ好かない顔と一緒に思い出される。
 ヒナタの素顔を見た男だ。
 忘れていた怒りも同時に沸き上がってくるが、さすがに残りの椅子を壊す気にもなれず、自信を諌める。


「顔写真だけでも高値で売買される、あの暗殺一家とヒナタはいつ知り合ったんだろうね。
 あーあ、またライバルが増えちゃったよ」

「……」

「ま、地道に好感度上げてけば、いつかは俺のものに……」

「シャル、それ以上喋ると舌を引こ抜くね」


 その時、ずっと握りしめていた携帯が着信を知らせるために震えだした。
 ヒナタだ。直感的にそう思い、慌ててメールを開く。
 そういえば少し前にメールを送っていたのを思い出す。

 試験の経過報告、謝罪、ヒソカとはなんでもないという必死の懇願に思わず顔がにやける。
 文章だけでも簡単に今の彼女の様子が目に見えるようだ。


「ヒナタから?
 いいなあ、俺にはあの電話以降、一度だって連絡してこないくせにさ」

「あたりまえね」

「ぶー」


 私のメールでヒナタが慌てふためくのが嬉しくてたまらない。
 でもそれ以上に、早く彼女に帰ってきて欲しかった。
 一人で寝起きするのも、食事を摂るのも、もう我慢できそうにないのだ。

 目を瞑り、ヒナタの笑顔を思い出す。
 足りない。
 せめて声だけでも聞きたいが、今彼女の越えを聞けば自生できずに飛び出してしまうだろう。
 握りしめた携帯は当分出番はなさそうだ。






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