wonder Alice.

□23 自覚
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「母さん、これ何」

 机の上に大量にある何やらご大層な写真の数々に首を傾げると、いつも通り包帯ぐるぐる巻の母親が甲高い金切り声で叫ぶように答えを返してくれる。
 その答えに思わず顔を顰める。あー、また母さんの病気が始まった。うんざりげんなりとする心と裏腹に、それが母親に伝わることは絶対にない。

「イルミももういい歳なのだからそろそろお嫁さんを見つけないと! だからこうしてゾルディック家に相応しいお嫁さんを探しているのよ!」
「へー」
「ああでもイルミが結婚したい人がいるのならまた話は別なのだけど」
「別にいないよそんな人」
「あらそうなの、残念」
「後、結婚も当分いいよ。そういうの面倒くさいから。それよりもミルキの相手でも探してあげたら? 最近出会い系までして出会いを求めてるみたいだし」
「あら、あらあら! そうよねミルちゃんもそういう年頃よね! わたくしとしたことがうっかりしてたわ!」

 うまいこと母親の意識をほかにそらすことに成功した俺はほっと息を吐いた。
 結婚か、そんなの考えたこともなかったけどいつかはしなければいけないものなんだろう。別に煩わしくなければ誰でもいいんだけどな。
 頭の中に浮かぶのはどれも要領の得ないもので、それらは全てぼやけた輪郭のまま霧散していく。
 でもその中で一人だけ、目が覚めるような美しい容姿をした少女がいた。たった一度だけ、それ以降はどれだけ探しても出会えなかったあの少女。

「うん、あの子となら結婚してもいいかも」

 ただそれにはちょっと厄介な邪魔者がいるみたいだけど、そんなことは俺には関係ない。
 珍しく浮き足立つ心を諌めながら、柄にもなく「いつか会えたらいいな」なんて甘い妄想を噛み締めていた。

 それが思いがけないところで現実になった時、俺は正気を忘れるほど歓喜した。今すぐ何もかもを脱ぎ去って彼女を連れ去りたいほどの衝動だった。
 でもやっぱり俺は心も欲しいんだ。
 なんでかは分からないけど、人形みたいなあの子を手に入れても俺は嬉しくないんだと思う。だから心から俺についてきて欲しい。あの子の意思で、俺を選んで欲しいんだ。
 ほんと、なんでなんだろう?






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