狩人

□二匹の猫
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 黒猫みたいなフェイタンが、ソファの上で丸まって寝ていた。
 規則正しい寝息が時折途切れるのが怖くて、数分おきに上から覗き込むように見た。平和な寝顔だった。
 出来る限り物音を立てないようにした。微かな物音も邪魔になると思った。
 うろうろするのも悪いので、椅子に座って物思いに耽ることにした。
 いつからだろう、と、思った。フェイタンが私の前で、無防備に寝るようになったのは、果たしていつごろの事だったろう、と、頭の中を探った。
 初めの頃は、まるでどこぞの殺し屋のように気を張っていた。私はそれを緊張しているのだと取った。
 私もそうだったし、照れくさかったから気にしなかった。ただ、二人で夜を過ごしてからも、眠りから覚めればフェイタンはいなかった。
 家にはいたが、隣にはいなかった。聞いてみれば、隣に人がいる事に慣れない、と、なんとも可笑しな理由だった。
 だから出来る限りに側にいた。どんな些細な時でも隣にいた。
 早く慣れてくれるように、くっつき合った。その甲斐があった、と思うべきだろう。

 ソファの上のフェイタンが短く動いた。
 それだけでなんだか幸せな気分になるんだから、恋とは不思議な物だ。テーブルに肘を着いた。
 後ろの窓からは、どこまでも青い空が見えた。温かい日差しが背中を温めた。
「……ヒナタ、何してるか」
 起きてしまったのか、まだ眠りの途中にいるフェイタンの声がした。
「今日はとても天気が良いからお昼寝日和だと思ってたの」
 外からは鳥の声も聞こえてきた。
「は、相変わらず平和なやつね」今の今まで寝ていたフェイタンには言われたくない。
 椅子から立ち上がって、フェイタンのほうに行った。
「寝癖がついてるよ」
 髪を撫で付ければ、反抗するように髪が跳ねた。
「喉渇いた、何かあるか」
「水でいい?」フェイタンが小さく首を動かした。「はいはい」それを了承と取って台所に向かった。
 コップの中の水を飲み干したフェイタンは、またソファに沈んでいった。
 そのまま猫みたいに体を伸ばして、んー、と唸った。どうやら寝ぼけているみたいだ。
「ヒナタも一緒に寝るか」
 腕を引かれた。
「いいよ」そのまま倒れこんで一緒に寝転んだ。
 広いソファは、それでも窮屈で、必然的にフェイタンと抱き合うような形になった。
「温かいね」
 フェイの吐息がくすぐったかった。
「あったかいね」
 指を絡めて、額をくっつけた。
「ヒナタ」フェイタンが言った。
「なあに」私は答えた。
 間近にあるフェイタンの唇の動きをじっと見た。一瞬たりとも逃さないように、瞬きも忘れて見つめた。

 その後は、猫みたいに二人で丸まって眠った。
 そんな午後。






→読まなくても良いあとがき
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