狩人

□輪廻転生
1ページ/2ページ




「フェイ、だーい好き。フェイが黒髪から銀髪になっても、背がいきなり二メートルに伸びても、黒から白の衣装にチェンジしても、三白眼がタレ目になってもだーい好き」
「……それ私違うよ」
「あは、そうだね。でも、中身がフェイならどんな姿でもいいよ」


 ヒナタは人間の魂が見えると言った。
 魂には色がついていて、形も違っていて、人それぞれに個性があると言った。私はそれを五分五分で信じていた。
 ヒナタは私の魂を好きだと言った。綺麗な漆黒の球体らしい、ヒナタは私の胸に触れて、そう微笑んでいた。


「きっと私は前世でもフェイのことが好きだったろうな。だから来世もきっとフェイのことを好きになると思う。今と同じ、変わらない思い」
「ヒナタの魂はどんな形してるか」
「自分の魂は見えないの。だからかな、余計に人の魂に興味が沸くんだよね」
「私はきと白だと思うよ。綺麗ね」
「……嬉しい。フェイ、だーい好き」


 私はヒナタが好きだった。今でも好きだ。これからも好きだ。きっと来世でも愛している。
 素直にそうは言えないけれど、私はヒナタのことを精一杯大事にした。拙いけれど必死に思いを伝え続けた。
 でもヒナタはこの世界で生きるには、真っ白で、優しすぎた。









「魂が消えるのって、凄く怖い」


 もう何度目になるだろうか、ヒナタはベットの上で膝を抱えていた。
 蜘蛛として仕事をするたびに、ヒナタの心は傷ついていた。名も知らない人間の死に涙を流していた。
 少しずつ、ヒナタは壊れていった。


「確かにそこにあって、脈打っていたものが……あんな、簡単に、弾けて、消滅する」
「ヒナタ」
「粉々に散り散りになっていく魂を見るたびに、聞こえるはずのない叫びが聞こえてくるの」
「ヒナタ!」
「男の子の青くて元気な魂を、私は――――この手で握りつぶした」


 何度もクロロに言った。
 ヒナタを蜘蛛から外して欲しい、ヒナタはこの仕事には向いていない、ヒナタはいつか壊れてしまう、そう、何度も言った。
 でもヒナタには価値があった。蜘蛛にとって価値があった。
 だからヒナタは外せないと、クロロは同じく何度も言った。私は初めて、団長の言葉に逆らいたくなった。







「フェイ、だーい好き」
「ああ」


 ヒナタが解放されたのは、取り返しのつかないほど心が壊れてからだった。
 私には見えないが、ヒナタの魂は昔のような姿ではないと簡単に予想できた。
 目の前ではヒナタが笑っている。
 昔とは変わり果てた、姿形も、魂さえも、もうヒナタじゃない。


「それでも私はヒナタが好きね。ヒナタの魂が変わり果てても、私はヒナタを愛してるよ」
「……フェイ、だーい好き」
「ああ、私も好きよ、ヒナタ」
「フェイ、だーい好き」


 だからもう、解放してあげよう。
 前世でも愛し合っていたのなら、現世でも愛し合えたなら、きっと来世でも私たちは愛し合える。
 だからこれは永遠の別れじゃない、束の間の別れだ。またすぐに会える。



「フェイ」



 ヒナタの胸に剣を突き立てた。苦しまないよう死ねるように、一撃でヒナタの命を奪った。
 涙が次から次へと溢れては、ヒナタの体を濡らしていった。
 大丈夫、一人にはしない、魂は巡るものだとヒナタは言った。今すぐに追いかければきっと追いつくだろう。


「待てるよ、私もすぐいくからな」


 最後に見えた幻は、ヒナタの魂だったのかもしれない。
 どこまでも白く、透き通るほど美しいそれは、例えどんなに遠く離れてたって見つけられそうだ。良かった。









(また君の笑顔が見れる)



→読まなくてもいいあとがき
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ