狩人

□フェイタンがヤキモチ妬くだけの話
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「ヒナタ、仕事だ」

 久しぶりにホームに顔を出した団長――クロロは短く私にそう命令した。一応蜘蛛に籍を置いている私だが、正確には蜘蛛のメンバーじゃない。だというのにクロロはたまのたまーにこうして私に仕事を押し付けてくる。働かざるもの食うべからず、なんて犯罪者集団の長に似合わない信条をお持ちなのだ。

 私はと言えば、真っ赤なカウチソファ(ちょっと落ち着いて読書ができて尚且つ寝そべったりできるような手頃なソファが欲しい、という私の願望をどこで聞いたていたのか、ある日フェイタンがあの小さな背中に大きなソファを担いでプレゼントしてくれた)にだらしなく寝そべって、最近買ったばかりの本を読んでいた真っ最中だった。クロロ、空気読んで。
 かったるそうにクロロを見れば、今日のクロロはいつもの団長姿ではなく、高そうな黒のスーツに靴。いつもオールバックの髪は下ろされている。そうしていると普段より十歳ほど若く見えるのだから不思議だ。そんなおめかししているクロロを不思議そうに見ているのに気づいたのか、俺様何様クロロ様は鼻高々に私を見下ろしてほくそ笑んだ。

「似合うだろ」
「……ええ、まあ。とってもよくお似合いです」
「そうだろう、そうだろう。わざわざオーダーメイドした特注のスーツに靴だからな」
「はあ」

 一人悦に入っているクロロは頼んでもいないのにくるくると見せつけるように回りだした。回れ回れメリーナルシズム、と言いたいところだがぐっと我慢する。クロロがナルシストなのは今に始まったことじゃない。

 私は本を読むのを諦めて、仕方なく椅子から起き上がった。どうせクロロは仕事の話が終わるまで私を開放する気がないのだから、抵抗するだけ無駄である。蜘蛛の仕事中のクロロは団長としての貫禄に満ちているというのに、なにゆえプライベートになるとこう、あれだ、残念な雰囲気になってしまうのか。まったくもって謎だ。

「それで団長、私に頼みたい仕事って何ですか? また有名スイーツ店の行列に並んで、限定二十個の特濃プリンを購入してくればいいんでしょうか」
「んー、それも魅力的だが、今回の仕事は別のことだ」

「別? それじゃあ一人で買いに行くのが恥ずかしいから私にもついてきてって頼んだ、今人気のアイドルの写真集って今日が発売でしたっけ」
「それは来月だ! 別に盗んでもいいんだが、やはり一ファンとしては自らの手で購入したいうんたら」
「……じゃあいったいどんな仕事何ですか」

 お分かりだろう。クロロが私に頼む仕事というのは、蜘蛛のメンバーには恥ずかしくて頼めない残念な仕事ばかりなのである。というかA級犯罪者がプリンだとかアイドルだとかにうつつを抜かしてもいいんですか、どうなんですか!
 そんな私の心の叫びを知ってか知らずか、クロロは比較的真面目な顔で咳払いをすると、勿体つけて話し始めた。

 話をまとめると、今夜行われる大規模なダンスパーティに主催者の娘が来るらしい。その娘の大のお気に入り、女神の涙という名のネックレスにクロロは前から目をつけていたのだが娘はあまり世に姿を現さず、そのネックレスも滅多に日の目を見ないそうだ。それが今夜手の届くところにやってくる。クロロは居ても立ってもいられず、かといって他のメンバーに頼むといっても大して大きな仕事でもない(ネックレス自体にあまり価値はないらしい。ならなんで盗むかというとクロロ曰く、びびっときたとか)。だからって一人で盗みに行くのも寂しい、ならヒナタがいるじゃーん、ラッキー! ということらしい。いっぺんプリンの角に頭ぶつけて死ねばいいのに。






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