ゴーストハント
□序章
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「お帰り」
そう言った目の前の女性は、記憶の中の少女より何倍も大人びていた。
当たり前だ。時は止まる事なく流れ続けているのだから、誰だって成長する。
だが、俺の中の時はあの日─人攫いに遭った日─のままで止まってしまい、動けずにいる。
どんなに辛く苦しい事があっても、幼い頃の思い出に浸り、すがり付いている時は幸せだった。
だからこそ、いつの日か家族の元に帰るのだという夢を棄てずにいれた。
目の前の女性に会う、ほんの少し前までは。
記憶の中の母はまだ生きていて、双子の姉─麻衣─は幼子のままで。
現実と思い出との違いに、心の底から恐怖した。
もう知っているものは何もないのかと、全て変わってしまったのかと。
変わってしまった者をこれ以上見たくなくて、俺はうつ向いた。
「彰」
暫くそのままじっとしていたら、己の名前を優しく、だがどこか力強く呼ばれた。
仕方なくゆるゆると顔を上げると、目の前の女性はにっこり笑った。
まるで太陽の様に。
「長いお使いだったね、アキ」
はっ、とした。
まさか覚えていたとは。
「解熱剤、買ってきてくれた?」
女性は相変わらず笑顔で、こちらを真っ直ぐに見つめていた。
太陽の様なその笑顔は、幼い頃よく見ていた笑い方と変わっていなかった。
それに気づいた瞬間自然と涙が溢れ、そして頬を熱く伝った。
「ただいま、麻衣。…解熱剤は、どこかに落としたみたい」
「そっか。じゃあ、今度は二人で買いに行こうね」
私達双子なんだもん。
一人は寂しよ。
一人でいるより、二人でいる方が絶対いいもん。
何だそれ。
あーっ!今バカにしたなぁ!
してねぇーよ。
…本当に?
ホントホント。
怪しいけど、まぁいいでしょう。
さて、そろそろ帰ろうよ。
私達のお家に。