甘き香り、陽炎に似て

□CANDY DAY
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「あ、そしたら忘れんうちに、渡しとこ」

ふいに火澄が、ごそごそと鞄を探って、真っ白な箱を取り出した。
それをひよのの前に、ずい、と差し出す。

「えーっと、こういう時って、何て言って渡すんやっけ?」
「さぁ。別に何も言わなくて良いんじゃないか?」
「えー。何か言いたいやん」

むぅ、と口を尖らせるが結局、何も思い付かなかったらしい。
誤魔化すように笑うと、ひよのが訝しげな顔をした。

「何なんです?一体」
「これ、おさげさんにホワイトデーのお返し。俺と歩からな」
「鳴海さんと…火澄さんから?」

ホワイトデー、という言葉を聞いて一瞬喜んだが、続く2人から、という言葉に首をかしげる。
バレンタインデーにチョコを渡したのは、歩に対してだけだったハズだが。

「こないだ、一緒に食べてん」
「…私が差し上げたの、先月なんですけど」
「うん。でも残ってたんやなー。あ、めっちゃ美味しかったで」
「それはどーも」

ギッとキツイ視線を送ると、火澄の背後で、歩が肩をすくめた。

「で、2人で食べたから、2人からのお返し」
「…なるほど。そういうコトなら、ありがたく頂きますね」

ようやく箱を受け取って貰えて、火澄が嬉しそうに笑う。
素直な笑顔が出来る人だな、と思いながら、シンプルな箱を眺めた。

「これ、食べ物ですか?」
「うん。今日のおやつにでもして」
「一応、日持ちもするけどな」

さらっと言った歩の口調に、おや、と思う。

「…もしかして、お2人で作ったんですか?」
「そうやねん!自信作やで!」
「お前は粉混ぜてただけだろ」
「何でや!他にも色々したやんけ!」

あれを準備したし、これは俺が全部やったし…と指を折る仕種が、小さな子どものようだった。
ひとつ息を吐いた歩が、わかったよ、と面倒臭そうに言うと満足気に頷く。
いつの間にか学校に近付き、周りを歩く生徒が増えてきた事に気付いて、ひよのは箱を開けるのを諦め、鞄にそっとしまった。
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