「ありがとう」を君に
□ひなまつり
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「こっちの椅子、どーぞっ」
深山木薬店のカウンター。
何気なく遊びに来た私(はっきり言って、単なる冷やかし客)の周りを、さっきから甲斐甲斐しく働く少年が一人。
自身の赤毛に負けない位、頬を真っ赤にしながら頑張る彼に、私はされるがままになっていた。
「どしたの、リベくん。今日はまた、一段と頑張り屋さんだね?」
リベザルが頑張っているのは、いつもの事だが。
何だか気恥ずかしくなってきた私は、思わずそんな事を聞いていた。
「だって、今日はひな祭り、ですよね」
私のコートを持った手を止めて、リベザルがこちらを向く。
…ひな祭り、だから何だと言うのだろう。
相当、間抜けな顔をしたんだろう。少年が少し、困った顔になった。
「あの、えと、ひな祭りは女の子のお祭りだから、今日は女の子に優しくする日でっ、えっとその…っ」
…何か間違っている。
でも、その一生懸命な顔を見ていたら、何だっていいや、という気になってきてしまった。
彼をからかう秋の気持ちも、わからなくない私である。
だから訂正するのは止めて、リベザルの短い赤毛を、ぐしゃぐしゃとかき回した。
「うわ!?」
「そっかそっか。ありがとう!君も立派な紳士だね!!」
「???」
目を白黒させるリベザルの髪を、今度はそっと整える。
彼の、日本人とは明らかに異なる色の瞳を、覗き込みながら、もう一度だけ。
「ありがとう、リベくん」
「?…はい!」
顔いっぱいで笑う、君の邪気のない笑みに、心からの感謝を。
―――Fin. Thank you for Reading!!