「ありがとう」を君に
□信じる者は…
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土曜の昼近く。
深山木薬店に遊びに行った私を、雇われ店長が、わざわざ店先で待ち構えていた。
「…どしたの、秋くん」
「今日はね、大ニュースがあるんだ♪」
彼のあまりの機嫌の良さに、思わず身構える。
「突然だけど」
たっぷり間を持たせてから、弾むように一言。
「今度ザギが、結婚するんだよ」
…はい?
理解が、及ばない。
固まってしまった私を、彼はにこにこしながら眺めている。反応を待っているのだ。
いつもなら、色恋話とあらば根掘り葉掘り聞き出したり、大騒ぎする私だけど。
今回は、それどころじゃなかった。
「…おめでとうって、言っといて」
「あれ、帰るの?ザギなら台所にいるけど」
「うん、じゃーね」
今、座木さんに笑って会える自信は、ない。
秋くんの顔もロクに見ず、私はもと来た道を引き返し始めた。
まさか、こんな事で気付くなんて。
人が1番わからないのは、自分の気持ちだ、なんて誰かが言ってた気がするけど。ここまで図星だと、結構哀しいものがある。
あまりに頭がいっぱいで、空耳で座木さんの声が聞こえた。
私の名前、呼んでる気がするよ…末期だな、私。
「良かった!何とか、追い付け、ました」
「うわ!座木さん、ホンモノ!?」
「?はい。本物です」
いつの間にか、私の隣にご本人。
慌てて走ってきたのか、少し息が上がっている。
…何か、珍しい。
「座木さん、何か用だった?」
「秋に、変な事を言われていないかと、心配になりまして」
…本人から言いたかったんだろうか。
私が黙っていると、彼は少し困ったように、微笑んだ。
「秋に“エイプリルフールが上手くいき過ぎた”と言われたものですから」
「へ?」
何だそりゃ。
それは、つまり…
「ね、今日って…」
「4月1日、です」
がっくりと項垂れる私に、座木さんは苦笑気味に手を添えてくれる。
「一体、どんな嘘を吹き込まれたんです?」
「ぜっっったい、秘密!!」
悔しさと恥ずかしさで、顔が赤くなる。
「あ、ありがとね、座木さん。わざわざ教えに来てくれて」
「いえ。こちらこそ、ありがとうございます」
「ん?何で?」
「私に関する嘘で、気持ちを煩わせてしまったようですから」
「…それは、ありがとう、なの?」
思わず、きょとん、と聞き返す。
すると驚いた顔をした彼は、次の瞬間、照れたように笑って訂正した。
「いえ、すみません、ですね」
「いーよ。ありがとう、の方が言われて嬉しい」
私の言葉に対して、彼が穏やかに微笑む。
それを見た私の顔が、ますます赤くなったのは、言うまでもない。
―――Fin. Thank you for Reading!!