「ありがとう」を君に

□君の温もりを
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「…寒」

陽が落ちた途端、一気に空気が冷たくなる。
家々の屋根の隙間に、夕陽の名残を捜していたら、ふいに声を掛けられた。

「何やってんの?そんな薄着で、らしくない」

驚いて声の主を探すと、少し先に人影が。
いつの間にか、よく見知った顔が電柱にもたれて立っていた。
世界が色を失っていくこの時間に、もともと色素の薄い少年は、ひどくぼんやりと見える。
私は何とか、彼を近くに繋ぎ止めておきたくて、わざと明るい声を出した。

「秋に言われたくないよ、そんな事」
「何言ってんのさ?僕の方が、ちゃんと防寒してるじゃない」

言いながら、すぐ隣を歩き出す。
よく見ると、彼は珍しくコートにマフラーを巻いていた。
私はといえば、冬物とはいえワンピースに、コートだけ。寒い筈である。

「女の子は身体冷やしちゃダメって、言われなかったの?」

冗談なのか本気なのか、わからない口調で言う。
ただ、人差し指をぴっ、と立てた彼の仕種が可愛くて、思わず笑ってしまった。

「やだ、秋ってば座木さんみたいな事言って」

気に障ったのか、口をとがらせる姿も、また可愛い。
あはは、と声を上げて笑っていたら、急に首周りが暖かくなった。

「…え?」

「貸したげる。今度、ウチまで返しに来てよね」

ふわり、と秋の猫っ毛が揺れる。
掛けられた彼のマフラーは、まだ秋のぬくもりを残していた。

「あ、ありがとう…」

彼の存在を、はっきりと感じる。
思わず、マフラーに鼻まで埋もれた私に、秋は満足そうな微笑みをくれたのだった。


―――Fin. Thank you for Reading!!
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