「ありがとう」を君に
□白い掛け算
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「あーーーッ!しもた!!」
学校からの帰り道。
偶然一緒になった火澄くんと、他愛もない話をしながら歩いていたら、突然、彼が叫んだ。
「な、何?」
「今日、ホワイトデーやん!俺、何も用意してへんっ」
あぁ、そういえば。
あまりにも自分に縁のない行事だから、すっかり忘れていた。
「何言ってんの?火澄くん、先月のバレンタインのときは、まだ月臣の生徒じゃなかったでしょ」
これまた忘れがちな事だけど、彼はまだ、ウチのクラスに転入してきて1ヶ月と経っていない。
「いや、こーいうんは気持ちの問題やねん。2月に一緒にいたら、確実にくれた人には、ちゃんと返さな」
そう言うと、くりっとこちらを向く。
…はい?
「お返し、何がえぇ?ちゃんと3倍返しするで♪」
けらっと笑いながら、歌うように言った。
…え?私、あげたの決定??
告白したっけ?私??
いや、してない。まだ。うん。。
混乱する頭で、何とかそれだけ導き出した私は、できるだけ平静を装ってみる。
「あのね、火澄くん。掛け算ってのは、もとが0なら、3倍しようが10倍しようが、0なんだよ」
そんな歌が、昔あったような。
すると火澄くんが、むくれた顔をして、私の顔を覗き込んできた。
…ヤメテクダサイ。チカイデス。
「何なん?実は俺のコト嫌いやった?」
「や、全然嫌いじゃないけどっ」
思わず、条件反射で答えてしまう。
途端、彼がぱっと顔を輝かせたかと思ったら、次の瞬間、頬に柔らかい感触。
…何?
それが彼の唇だとわかるまで、たっぷり10秒はかかった。
「!?…ッ////」
「“嫌いじゃない”の3倍やから、ほっぺたです」
「な…なにっをッ!?」
意味不明っ!!
「お返し。ありがとうな」
ふわり、と笑って言う。
まったく。
とんでもない掛け算も、あったもんだ。
―――Fin. Thank you for Reading!!