「ありがとう」を君に

□花明かり
1ページ/2ページ

「なぁ、ちょっと寄り道せーへん?」
「え…どこに?」
「日本人なら春といえば、お花見やろ?」

何の根拠もないけれど、妙な説得力がある。そんな火澄くんの言葉に誘われて、公園の桜並木へ。
のんびりと歩いて来たから、既に陽が落ちてきていた。もうすぐ夜桜だ。

「おわ。すごいなぁ…」
「ホントだねぇ…」

さっきから私と火澄くんは、呆けた様に同じ言葉を繰り返していた。
満開の桜は枝から溢れて、絶えず花びらを零している。それは、迫る夕闇をますます神秘的に彩っていた。

「何か、桜のピンクで道が明るいね」

まるで道が、ぼんやりと淡く霞むように見える。

すると火澄くんが、桜を見上げたままの姿勢で言った。
「“花明かり”って、こーゆうのんを言うんかな。花があるだけで、周りが明るく見える、って」

独り言のような彼の言葉を、頭の中で反芻する。

―――花明かり。

存在だけで、周りを明るく出来るなんて。
それはまるで、そう……


「火澄くんのこと、みたいだね」


気付いたら、声に出していた。
言われた本人は、意味がわからなかったんだろう。きょとん、とこちらを見返している。
ちょっと照れ臭くなって、へへ、と笑ってみたら、彼は「何か褒められた?」と嬉しそうに笑った。

「ありがと、火澄くん」
「うん?何で?」

笑顔で聞き返してくる彼に、私も笑顔を返す。
彼の明るさには到底、及ばないけど。

「“花明かり”って言葉、教えてくれて」

周りを明るくしてくれて、という言葉は、心の中だけにとどめておく。
ざぁ、と音を立てて、桜の花びらが舞い上がっていった。


―――Fin. Thank you for Reading!!
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ