「ありがとう」を君に

□花盗人
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今日はとびきりの花見日和だったと思う。
けぶるような桜吹雪。人々の笑い声。心持ち入ったアルコールと相まって、花見独特の雰囲気に酔いながら、私は一人、ふらふらと歩いていた。

あー、何か、春だねぇ…

ふいに足元に、大きなピンクの塊が見える。
花びらの山にしては、大きいな、と思って何気なく手を伸ばすと、それは見事に咲き誇る桜の一枝だった。

「あーっ、花盗人、発見っっ」
「うあ!?」

背後で明るい声がして、思わず枝を取り落としてしまう。
振り向いた先には、意地悪く目を細めた、少年が立っていた。…少年と言っても外見だけで、さっきまで一緒にお酒を嗜んでいたのだが。

「あーきーーーぃ」

じと、と睨み付けながら、できるだけ低い声で名前を呼んでみる。
だが彼は、気に留めた風もなく、にやにやと笑っていた。

「桜の花がいくら綺麗だからって、それも立派な公共物破損だよ」
「わ、私が折ったわけじゃないよ!拾ったんだって」

慌て方が、我ながら怪しかった。
秋は「ふ〜ん?」と含んだように笑いながら、私の足元から枝を拾う。

「誰かが、折ったはいいけど結局、捨てて帰っちゃったのかな?」

大した考えもなく私が言うと、彼は頷きながら、どこか寂しそうな視線を、桜の枝に送った。
そのまま俯いて、表情を髪に隠してしまったかと思ったら、次の瞬間、枝を少し折ってしまう。

「…なっ」
「キズモノにした責任は、きちんととらないと、ね」

訳の解らない事を言いながら、悪びれない様子で、枝の半分を私に差し出す。

「共犯、いかが?」
「それは私の履歴にキズがつく気がするんだけど?」

ニヤリ、と笑って言ってやると、秋は面食らった顔で私を見返してきた。
お酒が入った私は、いつもより強気である。
きっかり10秒、視線を逸らさずにいたら突然、秋が吹き出した。

「ちょっ…私は真面目なんだけど!?」
「アリガト。僕なんかで良ければ、善処するよ」

秋の呟きは、自分の叫びに掻き消えそうだったが、かろうじて私の耳に届く。瞬間、一気に酔いが吹き飛んだ。
再び秋の、笑いの発作がぶり返す。
その隣で私は、さっきまでとは違う意味で、顔の火照りを抑えられなくなったのだった。


―――Fin. Thank you for Reading!!
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