「ありがとう」を君に

□彼の部屋で
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私は、秋の部屋が好きだ。
用途不明の物がごちゃごちゃあって楽しいし、何より、秋の匂いがする。
だから、何やら忙しいという彼を待つ間、(勝手に)部屋に通してもらった。
座木さんは、お茶を勧めてくれたけど、それはまた後でのお楽しみだ。

「勝手知ったる、人の部屋ってね」

気分良く独りごちて、よいしょ、とロフトに登る。
この家の人達は、ロフトを寝床にしているので、もちろんココにも寝具がある。

ころり、と横になってみた。

ゆらゆらと、部屋を照らす日差しが明るい。
少し開いた窓から入る風が、ゆったりとカーテンを揺らしている。



…あー…気持ちいー……




「…と。そろそろ起きなよ、お姫様」
耳元で、声がした。

「お城の茨は、とっくになくなっちゃったよ」
誰かが、私の髪を手で梳いている。
何か、落ち着く。


ふいに“誰か”が手を止めた。

「んー……?」
重いまぶたを上げると、しげしげと私を覗き込む、髪と同じセピア色の瞳。

「あ、き…?」
「もしかしてさ、誘ってんの?」

真剣な表情。
1拍間をおいて、意味が降りてきた。


――どかっ


「〜んな訳あるかっ!?」
一瞬で目が覚めた。
思いっきり突き飛ばしてやったのに、秋は音もなく着地している。

…何だか、馬鹿にされた気分だ。

「そりゃ、僕にだって選ぶ権利はあるしね」

さらり、と言ってくれる。
…決定です。馬鹿にされました。。

わざと音を立てて、ロフトを降りる。
子どもみたいだと思いつつ、秋の前へ。
にこり、と天使の微笑みを見せる彼に、負けじと笑い返した。

「選ばせてなんて、あげないから」

そんな自信、ある訳ないけど。
せめて、表面上だけでも気取っていないと、負けてしまう気がする。

ぽけっ、と抜けた顔で私を見ていた秋が、急にニヤリ、と笑った。

「へぇ?それは楽しみ」

棒読みの台詞と共に、私の髪に小さなキスを落として。
思わず固まってしまった私を置いて、彼はするり、と部屋を出て行った。

リビングからは、お茶の良い香りが漂ってきている。


―――Fin.Thank you for Reading!!
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