「ありがとう」を君に

□雨の帰り道
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朝の予報では、雨は降らないハズだったのに。
ちょうど帰る時間になって、ふと見た外では、雨がざんざか降っていた。

「置き傘してて、良かった〜」

ぼんやりと歩いていると、通りがかったスーパーの前で、雨宿りしている月臣の学ランが見えた。
ん?あれは……

「ミズシロくん?」

両手にビニール袋を下げて、ぼーっとしていたクラスメイトは、私を見て目を丸くした。

「あれ、家こっちなん?」
「うん、まーね。ミズシロくんは、傘ないの?」
「あはは、そーやねん。天気予報、ばっちり信じたからな」
「私だって、置き傘だよ〜」

ひょい、と傘を上げて見せる。
雨は、当分止みそうになかった。

「良かったら、入ってく?」
「…へ?」

そんなに意外だったんだろうか。
ぽかん、とした顔で、彼が固まった。

「だ、か、らぁ、送りましょうか?」
「や、いや、そんなっ!?悪いて、ほんま!」

…何を狼狽しているんだ?
両手をぶんぶん振り回すから、ビニールの中身が、がちゃがちゃ言っている。…大丈夫かな?

「まぁ、いーから。荷物、振って平気なの?」
「は、あかん!うわ、大丈夫かな」

慌てて覗き込んだが、よくわからなかったらしい。少し考える素振りをするも、まぁえーか、と軽く笑った。
そして突然、姿勢を正して、こちらに向き直る。

「じゃ、えと…お言葉に甘えて、宜しくお願いします」
「え?あぁ、はい。どーぞ」

ぺこり、と頭を下げる彼に、ちょっと調子が狂った。
かしこまられると、何だか緊張してしまう。
それからミズシロくんは、マンションに着くまでずっと喋っていた。
興奮して、顔が火照っているのが、はっきりと見えている。
そんな事ばかり気になって、実はあまり話を聞いていなかったのだけど。

「ここや、ココ。ありがとな」

気が付くと、目的地に着いていたらしい。
ミズシロくんは、ちょっと待ってて、と慌ててマンションに駆け込んでいった。
…いつの間にか、雨も止んでいる。

「お待たせ!あぁ、雨止んだんや?」
「うん、そうみたい。…で、どうしたの?」

ばたばたと出てきた彼は、先程の荷物を置いてきただけで、着替えてもいなかった。

「うん。何や回り道させてしもたから、送っていこかと思ったんや、けど…」

迷惑やったら止めるけど、と目を合わせずに付け足す。
その様子が何だか幼く見えて、思わず吹き出してしまった。

「ちょ、何で笑うん!?」
「あはは、ありがと。じゃあ、お言葉に甘えて宜しくお願いします」

ぺこり、と頭を下げてみる。
ミズシロくんの顔が、真っ赤に染まるのを見て、しばらく笑いが収まらなかった。
水溜りが、夕焼けを映して赤く輝く。
…明日こそは、晴れるかな?


―――Fin.Thank you for Reading!!
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