「ありがとう」を君に

□虹の生まれる場所
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「宝捜しでもしてるのか?」

屋上でぼんやりしていたところに突然、声を掛けられたものだから、大袈裟に肩が跳ねた。
金網にかけた手が、思わず滑る。

「…はい?」
「虹の生まれる場所には、黄金のつまった壺が埋まってるって言うだろ」

知りません、そんなの。
でも今の台詞の中に、気になる言葉があって、私は空を見上げた。

「おわ!虹だーーーッ」
「…気付いてなかったのか」
「知らないよっ、ずーっとぼんやりしてたから…」

言いながら、先程の彼の言葉を思い出す。

「…さっきの黄金って、本当の話?」

心持ち、小声になった私の台詞に、彼が吹き出した。

「な、あんたが作った話なの!?」
「いや、ヨーロッパの言い伝え。まさか真に受けるとは、思わないだろ…」
「別に真に受けた訳じゃ…!!」

言い訳をしようとしたけれど、笑いを堪えきれずにいる人には、何を言っても通じない気がして、やめておいた。
せっかくの虹を、こんなことで見逃すのはもったいない。しっかり目に焼き付けておかないと。
そう考え、虹を端から端まで見届けようとして、ふと気付いた。

「ねぇ、虹の生まれる場所って、どこ?」
「空だろ」
「でも、それじゃあ埋まらないよね?」
「だから言い伝え、なんじゃないのか?」
「あ、そっか」

夢、なんだ。あったらいいな、って事か。
ようやく笑いの発作が治まってきた彼は、何だか寂しそうに見えた。

「…でも、今見えてる虹だって、充分“宝”だよね」

私の呟きを聞いて、彼がきょとん、と見返してくる。
そんなに見られると、ちょっと緊張しますな。

「だってほら、生まれた所がどこであれ、こんなに綺麗なんだもん、ね?」

上手く言えなくて、早口でまくしたてた。
驚いた顔をしていた彼が、ふ、と息を吐く。

「…黄金から生まれてきたくらいだからな」
「しつこいなぁ。そんなの、関係ないよ」

生まれた意味と、生きる意味は違うのだ。
そんなカッコ良い事は、さすがに言えないけれど。


そこまで考えて、ふと思い付いた事があった。

「そういや、名前何て言うの?」
「…今更?」
「あは、今更気になった」

笑って誤魔化すと、彼が思い付いたように笑った。


「企業秘密」


人差し指を口元にあてて、とっておきの宝物を取り出したような。

それは空の虹のように、眩しい表情だった。


―――Fin.Thank you for Reading!!

〜きら,きら,ら〜

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