「ありがとう」を君に

□勝負!
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自転車での帰り道。
信号を避けながら気分良く走っていたら、車も人も全然いない、広い歩道に出た。
真っ直ぐな道が、ひたすら伸びる。

…ここは、やはりスピードを出さずには、いられないでしょう。
思わず、1人ほくそ笑んで、ぐっとペダルに体重をかける。
すると車道を挟んだ向こう側の歩道に、スケボーに乗った男の子が現れた。
高校生くらいだろうか。セピア色の髪が、ふわふわとなびいている。

しばらく並行して走っていると、ふいに彼が、こちらを向いた。
そして目が合った瞬間、ニヤリと笑ったのである。


……宣戦布告?


途端、彼のスピードがぐんと上がった。

…え?スケボーって、そんな簡単にスピード上げられるものなの??

私が呆気にとられている間にも、彼はどんどん差を広げていく。
…こうしてはいられなかった。
ぐっ、と力いっぱいペダルを漕ぐ。
しゃこしゃこと回る車輪の音が、妙に耳についた。

あれほど長く見えた道も、あまりに呆気なく曲がり角に差し掛かる。
いつの間にか、彼の姿は見えなくなっていた。
ちぇっ、と舌打ちして角を曲がると、目の前には、塀に寄り掛かる男の子の姿。

「うあ!?」
「わ、危なっ!」

…自転車は、急に止まれないんです。
予想通り、私は自転車ごと横滑りするように転倒した。

「…大丈夫?」
「あ、ありがとう」

差し出された手を半ば無意識にとると、小柄な見た目に反して強い力で引き上げられた。
すぐ横に立て掛けられたスケートボードを確認する。
…やっぱり、さっきの男の子だ。

「僕の勝ちだね」

にこり、と笑う顔は、真っ白な花が開いたかのようで。
不意打ちを食らった私は、そのまま動けなくなっていた。…彼の手を、握ったまま。

「…手、いいかな?」
「あ、あぁ!ごめんなさい!!」

慌てて手を離すと、一瞬きょとん、とした彼が悪戯っぽい笑顔を見せた。

「リベンジ随時受付中。挑戦料は春日井のラムネ1袋」
「…ラムネ?」

ふわり、と髪を揺らす風は、何だか懐かしいような、甘い香りを乗せていた。


―――Fin.Thank you for Reading!!
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