「ありがとう」を君に

□待ち伏せ
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「あれ、今帰り?」

歩きながら、ひょい、と顔を覗き込むと、赤毛のクラスメイトは目を見開いた。

「脅かすなよなー!何だ、お前も?」

偶然だな、と笑う彼に、私は笑顔を貼り付ける。
馬鹿だなぁ。こんな偶然、そうそう起こってくれないよ?

「今日は1人なんだ?フラれた〜?」
「そんなんじゃねぇよっ。亮子は部活で遅くなるんだとさ」
「私、高町さんの事だなんて、一言も言ってないけど」
「…お前、喧嘩売ってんの?」
「100万円で、いかがデショウ」
「んな金あったら、もっと有意義な事に使うっての」

くだらない会話が、休みなく続く。
…コイツは、高町さんがいない時は必ずと言って良い程、私が現れる事に気付いているんだろうか。
答えは分かりきっているのに、また考えてしまった。
そのせいで一瞬、浅月の声が素通りする。

「…!ごめん、聞いてなかったっ」
「…何にも言ってねぇよ」
「あれ?そっか、ごめん」

急に勢いがなくなった私に、彼が不思議そうな顔をした。
そりゃそうだよね。我ながら、波の激しさに嫌気が差す。

「何か、あったんか?」
「…嫌になる位、何にもない」
「はは、平和でいーじゃねぇか」

平和、ではない。
むしろ私が、平和をぶち壊そうとしているって事、ホントにわからない?

「俺はまた、てっきりストレス解消に付き合え〜!とか言われんのかと思ったぜ」
「んな事、言わないよ」
「そ?でもお前、俺が1人の時を狙って、声掛けてくんだろ?
だから、クラスの誰かの事とか、込み入った話が来んじゃねーかと思ってたんだよな〜」


……え?


「…な〜に、マヌケ面してんだよっ」
「うあ!?何、近ッ」

突然、至近距離で現れた浅月の顔に、思わず後ずさった。
顔が熱くなるのが、自分でもわかる。

伊達メガネの奥で、目が細められた。
優しい光を受けて、私はいつも声が出なくなる。

「ホラ、お前そっちだろ?気ィ付けてな」
「あ、ありがと…」
「おぅ。何かあったら言えよ?あー、何もなくてもな。」

ささやかな、その言葉に甘やかされて。
また明日、と軽く手を挙げる仕種が、堪らなくて。

結局私は、また待ち伏せを繰り返すんだろう。
ひたすらに、一方的な想いを抱いて。


―――Fin.Thank you for Reading!!


〜waiting for...〜

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