「ありがとう」を君に

□Mr.MooN
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『お月見するから、今夜おいでよ』
そう誘われた先は、深山木薬店の屋根の上。
座木さんに通してもらうと、そこでは既に招待主が、お団子やススキを並べて、お茶を啜っていた。

「いらっしゃい。今夜は良い月見日和だよ」
「あはは、そうだね〜」

2人並んで、空を見上げる。
明るい月が雲1つない空に浮かんで、優しくこちらを見下ろしていた。

「きれーだねー…」

何気なく呟くと、いつの間にかこっちを向いていた秋が、ふいに真面目な顔で湯飲みを置いた。
思わず姿勢を正して座り直す。

そんな私の様子を見てか、彼が薄く笑った。
月の光を浴びて、色素の薄い髪が煌いている。

「では、僕は月でいよう」
「…え?」

唐突過ぎて、意味が分からなかった。
見上げる先には、丸い月。

「太陽ほど主張はしないけれど、真昼の空に浮かぶ穏やかな月のように。夜の闇を照らす、あの月のように」

深い色の瞳が揺れて、吸い込まれそうな錯覚を覚える。

「いつでも、キミを見守っている。
キミが歩いた分だけ、僕も空を泳いでいこう」



「……っ」

動けなかった。
目の前で流れる時間が、現実とは思えなくて。
真剣な彼の視線に、射すくめられて。

しばらく固まっている私を眺めていた秋が、ふいにからかうような表情に変わった。

「…な〜んて、昔のザギなら言ったんだろーな、と思ってさ」
「……は?」

瞬間、金縛りが解けた。
一気に身体中の血が駆け巡るのを感じる。
ぺろり、と舌を出してから、困ったように秋が笑った。
その顔が何だか赤く見えたのは、私自身の顔が映っていたのかもしれない。

…本当のところは、彼にしか分からないのだけど。



―――Fin.Thank you for Reading!!
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