「ありがとう」を君に

□夫婦茶碗
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「ハッピバースディ、カノン♪」
「うわ、ありがとう!これは僕にプレゼントかな?」
「そうだよ〜。ちゃーんと、お望みのモノを」

ぱっと顔を輝かせて、カノンが早速、包みを開ける。
その様子を眺めながら、私は手近な椅子に腰掛けた。

「それにしてもさ。誕生日にお茶碗が欲しい、だなんて相変わらず変わってるよね」

「その“相変わらず”ってところに、僅かな悪意を感じるんだけど?」
「気のせい、気のせい」

むぅ、とむくれて見せるカノンに、ぱたぱたと手を振って否定する。
やがて、包みの中から現れた2つの茶碗に、彼の表情が一気に明るくなった。
きらきらと、星が見える気がする。幻覚だわ。

「あ、ちゃんとペアなんだね。大きさがちょっと違う」
「うん。お店にあるのは、皆そうだったんだよね。ごめんね」

“2コ1組の茶碗”というカノンのリクエストに見合うモノは、何故か皆、大きさが少し違う物同士で組になっていたのだ。

「何で謝るの?」
「…え、だって」
「これで良いんだよ」
「あれ、そうなの?」

満足そうに、にこにこしていたカノンが、ふいに眉を寄せる。

「…もしかして、知らなかった?」
「な、何をでしょう?」

真剣な目で見つめられて、思わず姿勢を正した。
彼は私から目を離さずに、若干小さい方の茶碗を、すすっとこちらに押しやる。

「これが僕で、そっちはキミの分」
「は?折角あげたのに?」

相当ヌケた声が出た気がする。
カノンが、わざとらしく溜め息をついた。

「これ買うときに、何か名前付いてなかった?」
「え…陽だまりのネコ、とか?」

紫陽花、なんかもあった気がする。
私の答えを聞いて、へにゃ、と力の抜けたカノンが、そうじゃなくて〜、と叫んだ。


「夫婦茶碗って言うんだよ」


「へぇ………え?」

目が合った瞬間、極上の笑みを見せる茶髪の少年。
その手の中で“夫”の茶碗に描かれた猫が、笑ったような気がした。


―――Fin.Thank you for Reading!!
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