「ありがとう」を君に

□こっち向いて?
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リビングの椅子に座っていると、後ろに誰かが立つ気配があった。
案の定、声が掛かる。

「なぁなぁ」
「んー、火澄?」
「ちょっと、こっち向いて?」
「何〜?」

身体を伸ばしがてら、ぐっと首を反らせて背後を見ようとしたら…


――ゴッ


「いった!」
「〜〜っつぅ!?」

思いっきり、頭突きを食らわせてしまった。

「くあ…石頭〜」
「何やの?普通に振り向いたら、えぇやんか」

くぅ。その通りです。

未だくらくらする頭を押さえながらも椅子から降りて、火澄の隣に膝を抱えて座る。
彼は既に、けろっとした顔をしていた。
くそー、ホントに石頭め。

「で?」
「…は?で?」
「さっき呼んだ御用は何よ?」
「あー、あれはもうえぇねん。何でもなくなってしもた」

自分の後ろ頭を乱暴にごしごし、と撫でて言う。
ちょっと拗ねたような言い方に、何となくピンときた。
…さては、何か悪戯しようとして、失敗したな?

「ねぇ、火澄」
「何?」


――むに。


人差し指が、彼の頬に刺さった。
火澄の表情が、余計にむすっとする。

「…痛い」
「へへ、こういうコトだった?」

古い手だね、と笑ってやると、火澄が勢い良く私の手を掴んだ。
うわ、怒らせた?と思った瞬間、ぐい、と手を引っ張られる。
倒れないよう、咄嗟に膝をついてバランスをとったところで、頬に触れる、優しい感触。

思わず、動きが固まった。

そっと火澄を窺い見ると、怒ったような顔でこちらを見ている。

「こういうコト」

その小さな声に、あぁ、照れているのか、と納得する。
照れて…と、ふいに先程の様子を思い出して、一気に顔が熱くなった。
すると視線の先で火澄が、私の頬に触れたばかりの唇で、にやり、と笑う。

「で?」
「…は?で?」
「俺はお返しを期待しても、えぇんかな?」
「お返しって…」

何の話?という私の言葉をさえぎって、彼が自身の頬を指差した。
…まさか。

「えぇやんか、別に」
「何が良いの、何が!」
「…ダメ?」

急にしゅん、と小さくなる火澄を見て、あーあ、と思う。
私は結局、彼に弱いのだ。

「ダメじゃないけど」

呟きながら、素早く彼の頬にキスをひとつ。
咄嗟に反応できなかった火澄は、きょとん、とした顔で私の動きを追っていた。
元いた場所に身体を戻して、じっと目が合うこと、5秒。

「…ありがとーな」

へへ、と照れたように笑う火澄に、やっぱり私は敵わないのである。


―――Fin.Thank you for Reading!!
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