「ありがとう」を君に

□赤い時間
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「素敵ですね、その赤い鞄」

そろそろ帰ろうかと、鞄を手に取ると、すかさず座木さんが気付いてくれた。

「えへへー、この赤に惹かれて、衝動買いしちゃったんだ〜」
「珍しいですね。でも、よくお似合いですよ」

ふかふかした、真っ赤な鞄。
褒められて、えへえへ、と笑っていると、赤毛頭が突進してきた。

「うぉ!?どうしたの、リベザル」
「あ、あの、えと、そのっ」
「あー、良いから落ち着いて、ね」

何が良いんだ?と自分にこっそりツッコんでいると、大きく深呼吸したリベザルが一息で叫んだ。

「見せたい場所があるんで俺と一緒に来てくれませんか!?」
「…今?」
「今です!」
「もう、日が暮れるよ?」
「…ダメ、ですか?」

にこにこと見守る座木さんと目が合う。
眉を寄せて、あからさまにしょげる少年の誘いを、断る理由など私にはなかった。


そんなこんなで、てくてく歩いて、いつの間にか軽く山道。
しかしリベザルは慣れているらしく、ひょいひょいと身軽に進んで行く。

ふぅ、と思わず息を吐くと、リベザルがはっとした顔で振り返った。

「大丈夫ですか?」
「うん、ヘーキ。でもちょっと疲れたね」
「ごめんなさい!俺、自分が慣れてるからって気付かなくて…」

慌てた様子で、2歩程戻ってくると、ぎゅっと手を握られた。

「手、繋いだ方が楽なんですよ?」

にこ、と邪気なく笑うと、そのまま手を引いてくれる。

「もうすぐそこなんです」

そう言って、目の前に覆い被さるような枝をよけた瞬間。
ぱっと目の前に開けたのは、
あたたかく、ひたすらに真っ赤な世界だった。

紅葉した木々が並ぶ山の斜面を、眩しい夕陽が照らし出して。
空気の1粒1粒までもが、赤みを帯びて見える。

「…うぁ」

言葉に、ならなかった。
涼やかな風と、暖かな陽射しの名残。
赤、という名の液体か何かに、世界ごと満たされているようで。
ふと隣を見ると、繋いだままだった手の先で、じっと街を見下ろしている少年の横顔があった。
この赤い世界へ導いてくれた、赤毛の男の子。
無意識に潜めていた息が、ゆっくりと解けていく。

「ありがと、リベザル。凄い景色だね、ここ」

ぼんやりしていたのか、彼が驚いたようにこちらを見上げる。
少し間があって、ようやく意味が飲み込めたらしく、くしゃっと笑った。

「赤い色が好きなのかなって思ったから、絶対見せたかったんです。」
「…え?」

思わず、手元の鞄を見る。
あぁ。それで、今、ココか。

「…ふふ」
「え、あれ?違いましたか?」
「ううん。合ってる。赤は大好きだよ」

私の笑いの意味がわからずに、不思議そうな顔をするリベザルの赤毛を、少し乱暴に撫でて、再び景色に目を戻す。
あっという間に、赤い時間は幕を閉じようとしていた。


私がこの赤い鞄を買ったのはね。キミのコト、思い出したからなんだよ。


〜LOVE RED!!〜



―――Fin.Thank you for Reading!!
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