「ありがとう」を君に

□貴方にネクタイを
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「あ」

思わず声に出してしまい、慌てて口をつぐむ。
手を口元にやる事だけは、何とか我慢した。
あの反応は、あからさますぎると思うのだ。

「何?」
「いや、秋くん、何でもないよっ」

振り返った秋くんが、怪訝そうな顔をした。
その向こうで、座木が不思議そうに首をかしげたので、ちらり、と再び目をやる。
視線の先に気付いた座木が「あぁ」と、にこりと笑った。

「先日はありがとうございます。とても気に入ってるんですよ」
「いや、似合ってるよ、座木」
「ふ〜ん、お前たち、仲良かったんだな」

面白くなさそうな秋くんの台詞に、肯定も否定も出来ないでいると、座木が嬉しそうに頷いていた。
…この人は。

「で、似合ってるってのは、そのシャツ?ネクタイ?」
「ネ、ネクタイの方…」
「ついこの間、頂いたばかりなんです」
「ほぅ。それじゃさっきは、自分のセンスを褒めてた訳だね」
「…え」

そっか、そういう事になるんだ。
恥ずかしくて目を逸らすと、座木が「秋」とたしなめていた。
それに知らん顔をした秋くんが、ふいにこちらを向いて、にやりと笑う。

「ね。あれってやっぱり、狙ったんだよね?」
「…何を」

警戒して少し身を引くと、彼は意味ありげに隣の座木を見上げた。
座っている店長椅子が、キィ、と軋む。

「ネクタイって、首に締めるものじゃない?だからさ」

おもむろにカウンターに両肘をついた。
両手で頬杖をつく姿は、妙に子どもっぽくて。

「ネクタイをプレゼントするって事は、貴方は私のモノよvって意味がある、みたいな話。もちろん知ってたんでしょう?」

ニヤ、と上目遣いで見上げてくる。
驚いた座木の顔が何故か、少し赤くなったように見えた。

「それは、つまり…首輪ってコト?」
「――ぶっ」

犬用の首輪に繋がれた彼。結構、可愛いかもしれない。
思わず想像してしまって、小声になった私の言葉に、座木が吹き出す。
秋くんは不満そうな顔で回転椅子ごと、くるり、と1回転した。

「彼女の方が、1枚上手でしたね」
「なんだよー。つまんな〜い」

くすくすと笑いが止まらない座木を見上げて、秋くんがぐったりした顔をする。
1人、笑いの意味がわからない私は、ただぼんやりと2人のやり取りを見守っているしかなかった。



―――Fin.Thank you for Reading!!
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